ウラシネマイクスピアリブログ

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『哀愁しんでれら』

 “シンデレラ”と言えば“王子様と結婚し、幸せに暮らしましたとさ”的なハッピーエンドな物語ですが、今回ご紹介する作品はシンデレラストーリーの先を描く“裏”おとぎ話サスペンス、2/5(金)公開『哀愁しんでれら』です。

 足のサイズしか知らない王子様と結婚しても大丈夫なの?という“シンデレラ”ストーリーに真っ向から向き合うことから始まるこの映画。子供の頃に母親に捨てられるという心の傷を負いながらも、母親が担うであろう仕事をほぼ一人で引き受け、祖父、父、妹と暮らす小春(土屋太鳳)。でも祖父が倒れたことを皮切りに雪だるま式に不幸な目に遭遇。そんな時に小春は線路内で泥酔し、あわや命を落としかねない状況にいた男性を救出。彼は白馬に乗った王子様ならぬ、外車に乗った開業医・大悟(田中圭)だったのです。

これまでギリギリの生活を送っていた小春にとって何不自由ない生活をし、誰にも優しく娘の面倒見もいい大悟はまさに王子様。そんな彼に見初められ、人見知りな娘ヒカルも小春にはすぐ打ち解け、あれよあれよと結婚へ話が進んでいくのでした。一気にシンデレラストーリーを駆け上がることになりますが彼女の本当の物語はここから始まります。

 幼い頃に母親に捨てられた小春はそれがトラウマになっていて、勤めている児童相談所でもとにかく熱血指導に力が入ります。とにかく母親が自分にとっての嫌悪する女性、人間の代表格なので「あんな人にはなりたくない」と理想の母親像に固執してしまう様が伺えます。

大悟と結婚を決めるにもヒカリの母親にきちんとなれるか、結婚してからもいい母親になりたい、ならねば、いい奥さんになりたい、ならねばという願望がどんどん膨らんで、真面目なだけに余計に自分で自分の首を絞めていく小春。でもそれは純粋に幸せになりたいと願っただけの話だったのですが・・・・。

 そしてこの物語に大きな歪が加わっていくのは娘のためにいい母親を見つけなきゃ、母親が出来たらその人にいい母親になってもらわなければ、と大悟も同じように理想とする幸せに囚われた人間だったから。娘を守ってほしいとヒカル第一優先で小春には厳しくあたり、過剰な要求をたたきつけます。それでも「自分の母親のような人には絶対ならない、なりたくない」と思う小春はさらに追い込まれていくことになります。

 元々は幸せになりたい、いい親になりたい、子供を守りたい、そんな気持ちを願っただけだったのに、エスカレートして周りが見えなくなり暴走する感情。それはどんな人にも陥ることがある落とし穴、というのが何とも怖いことです。

 こんな“裏”シンデレラストーリーの主人公を土屋太鳳と田中圭という二人が演じたことでさらにインパクト大!二人なら王道シンデレラストーリーも描けたでしょうが、まさにその先をいった本作は刺激たっぷりです。

 願望も度を超して欲望過多になると誰もが足元すくわれる。衝撃的な物語ですが、誰の心にもこんな闇は生まれかねないのかもしれません。ふふふ。

By.M