ウラシネマイクスピアリブログ

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『偶然と想像』

 本年度のアカデミー賞のノミネートで話題を呼んでいる『ドライブ・マイ・カー』。ノミネートされた時点でとにかく凄いことですが注目されていたのは『ドライブ・マイ・カー』だけではありません。もう1本、賞レースで受賞を重ねている映画があり、それも渦中の濱口竜介監督作品です。今回ご紹介するのはベルリン国際映画祭で銀熊賞 (審査員グランプリ)を受賞、3/4(金)公開『偶然と想像』です。

 その前に『ドライブ・マイ・カー』のお話・・・上映尺も3時間に及び、多言語演劇のシーンを取り入れたり、文学的な要素も強く、小難しそうだな~、と尻込みする方がいても不思議ではないな、とは正直思っています。でもこれまでのどの日本映画とも違う感覚をこの作品から得られると思うので是非体験してほしい、というのが濱口ファンの私からの願い・・・そこで『偶然と想像』の登場です。

 本作は“偶然”をテーマに独立した3つの物語が織りなされる短編集の形式をとっています。1話が40分ぐらいなので尺のとっつきやすさはクリア!(笑)でも誰もが知っている俳優さんが総出演ではないですし、日常を切り取った会話劇で進行するのでそれはそれで「あまりこういう映画は観ないかな」という方もいらっしゃるかもです。が、どの話も“偶然”によって思いもよらないことが展開する面白さ(時に不運に見舞われる残酷さ)があって、ぐいぐい映画の世界に引き寄せられるので濱口映画の入門編としてはうってつけだと思っています。実際私が映画館で観た時は笑いが起きたり、思わず息をのむ人もいたり、「あーー」と声が漏れ出たりとこんなにお客さんの反応がリアルだったことってそうそうないなぁ~、という経験をし、映画の面白さ+αで幸福な映画体験をしたほどです。

 “偶然”によって物語が大きく動き出すのであらすじも入れない方がよりそのハプニングを楽しめると思うのですが、もうちょっと事前情報が知りたい・・という方のために簡単にご紹介します。

第1話は親友が付き合い始めた男性が自分の元カレだと知った主人公の物語、『魔法(よりもっと不確か)』。第2話は芥川賞を受賞した大学教授に落第させられた男子学生が逆恨みから教授に仕返しを企む、『扉は開けたままで』。そして第3話は同窓会で会いたかった友達に会えなかった主人公が翌日ばったりその旧友に再会する、『もう一度』。

 どれもあるようでないような日常、でもどこかで起きていても不思議じゃないな~、という現実味と虚構の世界の絶妙な塩梅が魅力。3編あるので「どの話が一番面白かった」と比較する楽しみがあったり、それぞれの主人公が偶然からたぐりよせる行動に共感したり、たまげたり、神様の悪戯にうな垂れたり、かと思ったらハプニングのおかげで晴れ晴れとした気持ちになったりと、我々の日常にもいろんな種類のミラクル(不運を含む)が潜んでいるかもと改めて気付かされます。

どの主人公たちも日常から登場し非日常を経験しながらも日常に戻っていきます。でも偶然によってもたらされた感情はその後の彼ら彼女らの人生においてもいつかふと振り返って思い出す分岐点になっていることは間違いありません。だからやっぱり我々はうかうかと人生を送ってなんかいられないし、どこかしら鬱々とした思いがあっても、“偶然”によって日常はグッと変わるかもしれないと“想像”出来るだけでも生きていくのって悪くない、そう思えたり・・・映画館を出た時に自分の前に広がる日常の先を感じさせてくれるのが本作です。ありきたりな言葉だけど本当、いい映画!

 そしてこの短編集は全7話構想だそうで、残る4話と出会える楽しみがあると知り、私は幸せを噛みしめている所です。

3/4~の1週間は『ドライブ・マイ・カー』とのハシゴも可能な上映スケジュールです。
濱口三昧な1日をあなたに・・・

By.M