シネマイクスピアリ: 2014年5月アーカイブ

『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』

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 皆さんこんにちは田舎育ちの女住人Mです。
今回ご紹介するのはど田舎の山奥で繰り広げられる爆笑と感動と衝撃の大木エンターテインメント作品でありながら自然と人間という関係性についてもほんのちょっぴり気付きを与えてくれる『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』です。
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 お気楽に高校生活を送っていた勇気(染谷将太)がふと目にしたパンフレットの表紙の美女につられ1年間の林業研修プログラムに参加することになり、帯の電波も立たない神去村(かみさりむら)にやってきます。過酷な研修にドロップアウトしそうになりながらも、表紙の美女・直樹(長澤まさみ)が村に住んでいると知り、中央林業を経営する飯田ヨキ(伊藤英明)の家に住み込むことに・・・。本作は田舎どころか山のやの字も知らないような都会っ子の青年・勇気が林業の世界に入り込み揉まれていく様を描きます。

 監督は「ウォーターボーイズ」、「ハッピーフライト」の矢口史靖さん。矢口さんと言えばあまり知られていない世界の裏側を舞台にそこに巻き込まれていく主人公の成長物語を描くことを得意とする作風でお馴染み。本作は矢口さんの十八番展開なので安心して見ていられると言うのはもちろん、役者たちのこの映画に対する本気度が各キャラクターに活かされ、物語自体をとても楽しくしています。
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 映画を観る時に「こんな人いそう!」と思えることや、役者とわかっている人がまさにその役の人間にしか見えてこないことってとっても重要だと思うのです。特に邦画作品は洋画と違って言葉もわかるし、文化や環境、時代性もある程度わかった上で観るので映画における登場人物の実在感がないと何か白けちゃいますよね。そういう点において本作は「いる!いる!」感が完璧です。

 主人公の勇気を演じる染谷くんは22才でありながらベネチア国際映画祭で新人賞にあたる賞を映画「ヒミズ」で受賞している演技派の青年。普段は暗い役やちょっと狂った若者役が多いので矢口監督作品の主人公と言うのは意外でしたが、またこれが良い!
映画冒頭はいい加減だし、やる気もないし「この村、マジやばいっす」ぐらいの青年なんですが、研修を終え、中央林業にて住みこみで働くようになってからはすんなり林業の仕事をマジメにやっていくんですよね。きっかけさえあれば、自分が打ちこめるものさえ見つけられればそれに邁進出来る元来の素直さがある青年という役を染谷くんがやると本当にしっくるんですよ。きっと染谷くん自身がそういう子なんだと思います。(渋谷の単館劇場に行くと染谷くんが一人で映画を観に来ているのに遭遇するので、彼はきっと良い子です。余談・・・)

 そして、染谷くん扮する勇気に仕事を教え込む、山の男たちの面々がまた良い。
林業シーンはキャスト自ら吹替えなしで実践して、堂に入っていることもあり、本当に林業をやってそうな役者ばっかり。道端でたむろして麻雀をする村のばあちゃんたちも、なまりまくりの素朴な子供たちもみんな東京や大阪でのオーディションで選ばれたとか。こういうところは矢口監督のこだわりの一つでもあって、本当に現地調達してそうな人たちしか出ていないから、映画に説得力もあるんですよね。
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(見よこの“ずっと村にいついている”感を。)

さらに突出するは中村林業のエース、林業をやるために生まれてきたようなこの村生粋の山の男・飯田ヨキを演じる伊藤英明さんが本当に素晴らしい!もう登場してすぐ、その体つきで山の男だとわかるし、しょっぱなで手鼻をかむ、その演出がハマりすぎで爆笑もの。「海猿」シリーズ以降、肉体派俳優と言えば・・という冠がついた伊藤英明が映画「悪の教典」を経て、その恵まれた肉体美でもって、それを活かした演技を手に入れました!伊藤英明ファンの中には彼のその肉体美を愛でる人が多いと思います(?!)、その求められていること、望まれることを察知し、それを充分に活かした上でさらに求められる以上を提示する、実は日本の若い役者でそう言うことが出来る人ってまだいないと思うんですよね。いや〜、伊藤英明よくやった!(愛情込めて呼び捨てにしてしまう)
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(見よこの“山の男たち”感を。)

途中、この映画は伊藤英明主演映画ではないか、と思うぐらいのインパクトを与えながらも、しっかり勇気の成長を見せる、何とも爽やかな映画なのでした・・・・
と思ったら後半にまさかなのエロ展開があるのでそちらはスクリーンでお楽しみ下さい。
いや、エロと言ってもそれは人間の営みとしてとても普遍的な行為に基づくエロなのでそこは神聖な思いで受け取りましょう・笑
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(みなさん、ふんどしがお似合いよ〜)

そんなこんなで、勇気の成長を笑いを交え描き、でも「スローライフ良いわね」と暢気に構える人たちに田舎での暮らしの厳しさもきっちり伝え、何とも好感の持てる映画なのでした的『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』は5/10(土)からシネマイクスピアリにて上映中です。

By.M
(C)2014「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」製作委員会

『チョコレートドーナツ』

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 皆さんこんにちは、女住人Mです。今週ご紹介する映画は都内で公開がスタートするやいなや初日から全回満席の大大大ヒット!そんな映画がシネマイクスピアリでもご覧になれますよ、5/17(土)から公開中の『チョコレートドーナツ』です。
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 舞台は1979年のカルフォルニア。シンガーを夢見ながらもショーパブで女装の口パクパフォーマンスをして日銭を稼ぐゲイのルディ(アラン・カミング)。正義を信じながらもゲイであることを隠し生活している弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)、二人は出会ってすぐ惹かれあいます。そんな出会いがあった翌日、ルディはアパートで薬物中毒の母親に置き去りにされたダウン症のマルコ(アイザック・レイヴァ)とも出会います。一人部屋の片隅で母親を待つマルコを何とかしたいと思ったルディはポールに相談し、ほどなく彼の家でマルコの面倒をみるようになります。二人は深い愛情でマルコを育てようとしますが法と差別が二人の前に立ちはだかっていきます・・
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 本作は全米の映画祭の観客賞を総ナメにしたつまり、愛され系映画と言うこともあって、ここ日本でも公開から口コミがどんどん広がっています。言ってしまえばゲイのカップルがダウン症の少年と3人で家族になろうとするお話。つまりマイノリティの人たちの人生を描く物語なので多くの人たちが劇場に足を運ぶ映画か?と言われると必ずしもそうではないかもしれません。なのに何でこんなにもこの映画は愛されるのか・・・その理由はこの映画のシンプルさ故の強さにある気がしています。

 現代はいろいろな価値観が認められるようになった一方、その差別も根強く残っているのが事実です。となると、この映画の舞台である70年代がゲイの人たちにとってどれだけ生き辛い時代だったかは想像に難くありません。主人公のルディは部屋で佇むマルコを見てすぐに自分の部屋に連れて行き、出会ったばかりの弁護士ポールに相談の電話をかけます。自分の生活もやっとなのにルディは一人ぼっちになったマルコをためらいなく自分の部屋に迎え入れます。マルコに朝食を出そうとしても、冷蔵庫にはチーズぐらいしかないのに・・・。

この映画が表現する全体の空気感はルディのこの迷いない行動で全てをあらわしています。ルディの過去について何の説明もありませんが、この行動で観客はこれまでルディがどんなに辛い思いをし、今に至るのか、それ故に何も聞かずにマルコの全てを引き受け、すぐに行動に出る・・・そんなルディの行動の裏付けとして彼のこれまでの人生を全て感じとることができます。ただ目の前にいるこの子が一人だから、その痛みがわかるルディはそこに自分を重ねたのかもしれません。もちろん損得など全く関係なくマルコを受け入れるのです。ルディの潔さ、その根幹にあるルディの苦悩、だからこそ持ちうるルディの心の美しさが感じ取れただけで私はこの映画に心を奪われました。
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(タイトルの「チョコレートドーナツ」はマルコの大好物。)

 この後、物語は3人で幸せに過ごす日々が描かれます。どんな時代でもマイノリティである人たちの心を汲む人もいればそうでない人もいる。ポールは正義のために、世の中がもっと生きやすくなるように、転職して必死に勉強し弁護士になっています。それでもその思いが簡単に達成されることはないことも改めて知ることになります。そのままにしていたら社会から弾き飛ばされるであろうマルコを二人は必死に助けようともがきます。いつも寝る前にハッピーエンドの物語を聞かせてとねだるマルコに、彼の人生もハッピーエンドの物語で終わらせることが出来るように・・・・
そして、三人の物語はルディが歌うボブ・ディランの「I Shall be released」で幕を閉じます。全ての偏見から、差別から、それによる苦悩から、苦痛から解放される日を全ての人が手に入れられますように、そんなメッセージと共に。
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(トニー賞受賞経験のあるルディ役のアラン・カミングが歌うこのシーンは本当に圧巻)

 偏見によって生き辛くなってしまう我らの世界ですが、それがどんなに浅はかなことであるかこの映画は教えてくます。
是非、スクリーンでご覧下さい!

By.M
© 2012 FAMLEEFILM, LLC

『百瀬、こっちを向いて。』

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甘酸っぱ〜い気分になりたい皆さん、こんにちは。甘酸っぱさのカケラもない日々を送る男住人Aです。40歳も近くなると、青春時代はもはやカゲロウのよう・・・。今回はそんな僕にさえも思春期の甘酸っぱさを思い出させてくれた作品、5/10(土)から公開中の『百瀬、こっちを向いて。』をご紹介します。
岩井俊二監督の『Love Letter』とかが好きな方には絶対おすすめです!

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(この女の子が、こっちを向いてくれない百瀬。こっち向けよ!)

この作品が我々30代男子(&女子)を甘酸っぱい気持ちにしてくれる最大のポイントは、「30代の大人から見たあの頃」という視点で高校時代の恋愛ストーリーが語られる点です。本作の監督の耶雲哉治さんご自身も30代の方で、恐らく自分が実感する「あの頃」への郷愁とか、切なさや痛みを思い切りこの映画に詰め込んだのではないかと思います。

まず登場キャラクターを簡単に紹介すると・・・

◆主人公の百瀬:先輩の宮崎くんが好き(片想い)
◆神林さん:百瀬と同じく宮崎くんが好き(両想い)
◆宮崎くん:神林さんと付き合いつつ、百瀬にも気のある素振り
◆もう一人の主役のノボル:宮崎くんの幼馴染(後輩)で、百瀬のことが好きになる

つまり、ノボル ⇒(好き)⇒百瀬 ⇒(好き)⇒ 宮崎くん⇔神林さん という図式です。

このようなドロヌマ相関関係を導いた悪の根源は、イケメン宮崎くん。神林さんという本命彼女(これがまた超美人!)がいながら百瀬との仲が噂されるようになった宮崎くんは、もみ消し作戦として後輩のノボルに「お前、百瀬と付き合うフリしなよ」と持ちかけるわけです。もちろん百瀬も了承済み(←この辺は複雑な女心というやつでしょうか)。そしてヘナチョコなノボルは断り切れず、百瀬と「嘘」の付き合いをはじめることになります。もちろんお互いに最初はぎこちない関係で、そもそも百瀬は宮崎先輩が好きなので、ノボルのことなど相手にしません。学校で人目がある時だけ演技でイチャイチャして、ノボルを振り回します。
それでも、嘘を重ねているうちにちょっとずつ、二人の間に流れる空気が変わってくるんです。やがてノボルはガチで百瀬を好きになり、恋の一方通行が完成、完成〜。

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(こちら、インチキラブラブシーン。こんなんされたら男は確実に惚れてまうやろ。)

この辺から物語は百瀬とノボルが微妙に距離を縮めていく様子にフォーカスします。気付けば映画を観ている僕の心理はイケてない男子同士が同盟を結ぶかのごとく、完全にノボルと一体化。「ノボル、頑張れ!いっちまえ!」と脳内声援はMAXで、ついにはノボルと一緒にボロ泣きするというブザマな事態に。
そして映画の終盤、男気がUPしたノボルの口からタイトルになっているあのセリフが出てくるのです。「こっちを向いて。」と・・・。おい百瀬!どうしてくれんだよ、この気持ち!

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(当時を回想する設定で登場するのが、30代になったノボルを演じる向井理さん。)

もちろん女子の皆さんは逆に百瀬の立場で、宮崎先輩への報われない恋心とか、ノボルへのモヤモヤした気持ちを自分の経験に重ね合わせて、キュンキュンすること間違いなしでしょう。当ブログの主人である女住人Mもどうやら百瀬に肩入れしたようで、「神林さんが一番うまいことやったよね〜。百瀬は悪くない!」と言ってました。ノボル目線の男衆にとっては百瀬がすべてなので、神林さんとかどうでもいいんですけどね・・・。それに百瀬は絶対小悪魔だと思うんですけど、皆さん、どうっすか??

★おまけレポート!★
先日都内で行われた完成披露試写会で捕獲した写真&コメントをここでご紹介します!
今さらですが、百瀬を演じたのは元ももクロの早見あかりさん、ノボル役は竹内太郎さん(高校生時代)と向井理さん(15年後)のお二人。

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この作品で長編映画デビューとなる耶雲哉治監督(写真左奥)も舞台挨拶に加わって、なんだか初々しい雰囲気。

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映画が完成して「すごく嬉しくて、不安で、でも幸せです!」と語った早見さん。
百瀬のイメージに合わせて髪を45センチも切ったそうで、「役作りで髪を切るなんて、なんだか女優っぽい。」と照れ笑い。

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若き日のノボルを演じた竹内太郎さん。
「劇中では百瀬に振り回され、OFFの時も早見さんにお尻を蹴られてました(笑)」とヤラレキャラ全開の竹内さんは、実は海外育ちの若手有望イケメン。

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「原作本は2回読みました。嘘からはじまって、次第に二人の距離感や空気が変わっていくところを見てほしい。」と向井さん。
撮影が後からだった向井さんは、竹内さんのリハーサル風景を見て“大人ノボル”の役作りをしたそうです。

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耶雲哉治監督は「ノボルはイケてない男で、僕に似てる。」とコメント。やっぱり監督の実感がこの映画に込められていたんですね・・・。
「役者さん本人から醸し出されるものが役にどれだけ重なるか」でキャスティングしたそうで、皆さんピッタリのハマリ役!

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実は監督はいつも映画の前に流れる「NO MORE 映画泥棒」も手掛けている方で、映像・映画制作会社ROBOTに所属するディレクターさんです。そんな縁で、カメラ男さんがスペシャルゲストとして登壇!

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ちなみにシネマイクスピアリで「NO MORE 映画泥棒」の後に流れる劇場オリジナルのオープニング映像もROBOTさんが作ってくださったものですよ。
この機会に改めてご注目を!

By.A

©2014 映画「百瀬、こっちを向いて。」製作委員会

『プリズナーズ』

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 皆さんこんにちは、GWも映画館に通っていた女住人Mです。
今回はGWも終わり落ち着いたところでじっくりと見応えのある作品を・・・・
と言う訳でヒュー・ジャックマン×ジェイク・ギレンホール共演の『プリズナーズ』をご紹介します。
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 主演は「レ・ミゼラブル」の大ヒットを受け広くその顔を知られるようになったおヒューことヒュー・ジャックマン。オバマ大統領が寿司会談をしたすきやばし次郎をこよなく愛し、親日家というか世界中でいついかなる時でもナイスガイ、彼の聖人伝説はいろいろな所で転がっている程、本当に良い人!(いえ、会ったことないですけど・笑)そんなおヒューがそういった彼自身のイメージを真っ向から覆し挑んだのが本作のケラーという役。
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(いつものおヒューは始終こんな感じの子煩悩パパさん役なのですが・・・)

 家族で幸せな一日を過ごすはずだった感謝祭の日。ケラーの6歳の娘アナがひとつ年上の親友ジョイと一緒に外出したまま忽然と消えてしまいます。まもなく警察はアレックスと言う青年を容疑者として拘束するのですが、自白も物的証拠も得られぬまま彼は釈放・・・。担当刑事ロキの捜査に業を煮やしたケラーは、アレックスが漏らしたある一言から彼を犯人と確信し、自らの手で娘を助け出すために一線を越えてしまいます。ケラーはアレックスを監禁し拷問してしまうのです・・・家族思いで信仰心が厚い父親、それ故に愛娘の命の危機を経験することで常軌を逸してしまいます。一番大切なものを失う恐怖を知り、ダークサイドに堕ちてしまうおヒュー。普段のイメージ、これまでの役柄から一変しているが故に狂気が暴走する彼を見るのは本当に辛い、辛い。話が話だけに、ただでさえ胸が締め付けられる状態なのに・・・
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(こんなの私が知っているおヒューじゃないよ〜)

 そしてまた容疑者となるアレックスを演じるポール・ダノの安定の演技が拍車をかけます。彼は日本では「リトル・ミス・サンシャイン」の内向的なお兄ちゃん役から知られるようになりましたが、変幻自在、そして掴みどころのない役をやらせると本当にピカイチで29歳にして既に名バイプレイヤー。「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「それでも夜は明ける」といったオスカー作品にも出演し、観客の気持ちを逆なでするような役を見事に演じます。そしてたいてい劇中で最終的にボコボコにされる役が多いという・・・ご多分にもれず本作でもおヒューにボコボコにされます。しかもポール・ダノ俳優人生最大のやられっぷりです。
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(「こういう役を演じるのも辛い・・・」と吐露していたダノ君に「ルビー・スパークス」みたいな役をたまにはやらせてあげてぇ〜)

「確かにこいつが怪しい。こいつは確実に何かを知っている。」と思わせるポール・ダノの風貌と演技ですが、果たしてケラーの行動を肯定してしまって良いのか?いやむしろ同じ行動を取ってしまうのではないか、と観客はますます追い込まれていきます。そして捜査は難航しつつも、ジェイク・ギレンホール扮するロキが新たな容疑者の糸口を見つけ、映画自体のミステリー性も色濃くなっていくのです。
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(ロキという人間がこれまでどんな人生を辿ってきたかも自然とわかる演技をするジェイク・ギレンホールの役作りがまた良いYo!)

 こんなヘビーな内容でありながら全米ではロングランヒットをしたのですが、それは失踪事件の核心に迫っていくサスペンス的要素、脇に至るまで完璧な役者陣の演技、父親のモラルを越えた行動をどう考えるかといった感情論、そしてアカデミー賞撮影賞に11度もノミネートされながらも未冠の巨匠ロジャー・ディーキンスが撮る画など、様々な見どころがあるからでしょう。そしてこの映画の冒頭からそのメッセージは明確だったのですが、事件の真相が明るみになるにつれ、この映画の背後には“信仰心”が強く影響していることもわかります。日本人にとってそれは縁遠いものですが、こういう状況になった時に「じゃあ“信仰心”のない我々は何をもって心を保つことが出来るのか・・・」と別の疑問も沸いてくるのでした。でも私がこの宗教的な香りを物語のテーマと結び付けられたのは2度目の鑑賞の時で、そういうもの抜きにしても初見時かなり惹きつけられたので、そう言う意味でもこの映画の深さには唸るばかりです。
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(本作の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴの過去作でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートもされた「灼熱の魂」がまたどエライ作品なので、この映画が気に入った方はこちらも是非!)

 様々な人が様々な状況で囚われる『プリズナーズ』は5/3(土)からシネマイクスピアリにて公開中です。
映画を観た後にこのタイトルがさらにジワジワきますよ。

By.M
(C)2013 Alcon Entertainment, LLC. All rights reserved.

『とらわれて夏』

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 GWに突入しましたね。もともとゴールデン・ウィークは映画業界の宣伝用語だったんですよね。皆さんこんにちは、女住人Mです。
今回は“私ごとですが、この監督の新作が常に楽しみでしょうがない”シリーズ、ジェイソン・ライトマン監督最新作5/1(木)公開の
『とらわれて夏』をご紹介します。
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 私が大好きなジェイソン・ライトマン監督は「ゴースト・バスターズ」の監督アイヴァン・ライトマンを父に持つ、現在36歳の若手監督。とは言え、長編映画監督デビュー作の「サンキュー・スモーキング」以降、「JUNO/ジュノ」、「マイレージ、マイライフ」、「ヤング≒アダルト」と現代的でユーモアのある作品を作り続け、既に2度もアカデミー賞にノミネートされている実力派。都会的な映画を得意とする彼の新作の舞台は1987年、アメリカ東部の静かな田舎町とこれまでとは全く違います。「なぜライトマンは(これまでとは全く違うタイプの)この映画を撮ったのか」個人的にはこれが一番気になるポイントではありますが、先ずはこの映画の魅力をお伝えします。
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 物語は心を病みスーパーに行くのもやっとな母親アデル(ケイト・ウィンスレット)に献身的な態度をみせる、13歳の少年ヘンリー(ガトリン・グリフィス)の目線で語られます。週末にレイバーデイ(労働者の日)の祝日を控え、月に一度の買い物のために母とスーパーへ出かけた二人。その時に偶然出会った逃亡犯のフランク(ジョシ・ブローリン)。家に匿うことを強要されながらも、「決して傷つけない」その言葉通りに二人に接するフランクに次第とアデルとヘンリーは心を許していき、そして二人の生活には欠けていたものをフランクが埋めていくようになります。逃亡犯と出会い、彼のことを次第と知っていくうちに気持ちが徐々に傾いていく母・・・
彼女のフランクへの想いはまさに犯罪者に恋をしてしまう人質の恋愛“ストックホルム症候群”。一見この無理がありそうな設定を説得力持って演じる逃亡犯フランクことジョシュ・ブローリンに注目!
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(この逞しく、うまそうな二の腕を見よ!)

逃亡犯でありながらもフランクはどこか優しさのある人物として描かれ、物語は彼の過去がフラッシュバック的に挿入される形でも進行するため、なぜ逃亡犯となっているのかが次第とわかるようにもなっています。決して心から悪い人間でなかったんじゃないかと思わせるフランクはアデルたちの家に来て決定的にここに欠けているものを即座に察知します。それは父性の欠如。ちょっと手を加えれば直る傷んだ家、車・・・フランクは家を修理し、車を直し、ヘンリーにもそのやり方を教えます。男性はおろか、人との関わりを避けていたアデルにとって心のどこかでは求めていた男性的な優しさに触れ、恋に落ちるにはそう時間は必要ありません。
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 そして13歳という多感な時期であるヘンリーにとっても母が抱くフランクへの想いはこの年の子が抱きがちな汚らわしいと言う感情ではなく、とても当たり前のものとして受け止めていきます。なぜなら彼にとっても男性的な優しさ、父性的なものが必要だったから。二人が心を許し、頼るようになると犯罪者として投獄されていたフランクの孤独な心にも久しぶりに温かい感情が芽生えるのです。そう、この三人が出会ったことでそれぞれがなかったもの、欲していたものを補い合ってしまうのです。

そして決定的だったのはフランクが手ほどきをして作るピーチパイ。「パイはレシピに従うのではく、本能で作るんだ」と言ってアデルの手をとりパイを作るこのシーンのなんと官能的なこと・・・物静かで手先が器用で子供にキャッチボールとかも教えちゃって、料理まで出来ちゃう、しかも演じるはジョシュ・ブローリン、犯罪者でも逃亡犯でもそんな細かいこと気にしまへん!アデルでなくともこの映画を観れば世の女性の多くはフランクと恋に落ちてしまうことでしょう・・・これを映画の説得力と言わずして何を言う。繰り返しになりますが、料理が出来て、修理も出来て、心も優しい、ジョシュ・ブローリン顔の人が突然家にやってきたら、例え犯罪者でも拒む自信があなたにはありますか?私にはありません!(キッパリ)
「レボリューショナリー・ロード」「愛を読む人」「リトル・チルドレン」と薄幸の人を演じさせたら右に出るものはいないケイト・ウィンスレットがアデルを演じたこと、ヘンリーを演じた少年ガトリン・グリフィス君の暗い眼差しがまたこの映画の説得力を高めるのでした。
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(パイ作りシーンは「ゴースト/ニューヨークの幻」のろくろシーン以来の映画史に残る間接的表現における官能シーンではなかろうか!)

 ともすればオーソドックスなメロドラマとも取れる題材の本作。でも過去にとらわれ過ぎたことで人生をうまく生きることが出来ない人物として描かれるアデルとフランクはこれまでジェイソン・ライトマン監督が描いてきた主人公と時代は違えどもどこか通じる人物だったのです。あ〜だからこの映画を撮ったのかな・・・・。

 これまでのジェイソン・ライトマン作品にあった鋭い視点、ユーモアは封印されていますが、これまで同様人物をじっくり描き、レイバーデイの時期(9月1週目)独特の空気感(暑さ)が官能的なこの物語をさらに濃密にしていきます。温かい余韻に包まれて下さい・・・
By.M

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