春の嵐でしょうか?変な天気が続きますね、女住人Mです。今回は本年度アカデミー賞作品賞ほか最多4部門を受賞し、映画ファンが日本公開はまだか、まだかと待ちうけていた作品『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』をご紹介いたします。
主人公はヒーロー映画「バードマン」で人気を博したかつてのスター、リーガン(マイケル・キートン)。結婚に失敗し、娘のサム(エマ・ストーン)はドラッグに溺れ私生活もボロボロ。過去の人となりさがった今、その状況から抜け出すために自身の主演・演出・脚本で初めてブロードウェイの舞台に立とうとしています。ところがプレビュー公演の前日に共演者が降板。共演者の一人レズリー(ナオミ・ワッツ)が人気・実力もあるけれど人としては問題児なマイク(エドワード・ノートン)を代役にと話を持ってくるのですが・・・
この映画は特に3つのポイントについて語られることが多いでしょう。先ずは現実とフィクションが入り混じったキャスティング。本作の主演リーガンはヒーロー映画で一躍人気俳優となったもの、今は一時期の人気に影が差す役者という設定。演ずるは自身も過去「バットマン」を演じ、リーガンと同じようなキャリアを進んでいるかのようなマイケル・キートン。本作でも「俺のキャリアの頂点は1992年だったんだ」というようなセリフがあり、それはキートンにおいては「バットマン リターンズ」が公開された時になります。それ以外にもナオミ・ワッツは長い下積みを経験し、やっと念願のブロードウェイの表舞台に立つことに全てを賭けているレズリーを演じますが、彼女自身デビッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」で脚光を浴びるまで時間がかかり、その時32歳、遅咲き女優と言われたものです。
(リーガンのマネージャーを演じるはザック・ガリフィナーキス(右)。
「ハングオーバー」シリーズのあの迷惑な彼です・笑。いつもの役のイメージとは異なる、知的で腹黒い男を演じましたがすぐに彼だと気付いた方は少なかったのでは?)
癖のある人気俳優マイクを演じるエドワード・ノートンも映画と舞台両方で活躍する役者で、ハルクを演じていたことも。主演・脚本・演出も手掛けたのにギャラ交渉でスタジオと決裂し降板したという過去も。そんな所もマイクの設定とも被る?!思えば、娘役のサムを演じるエマ・ストーンも「アメイジング スパイダーマン」でスパイダーマンの彼女グゥエンを演じながらもシリーズはまたもやリブートされる予定。キートン、ノートン、エマ・ストーンといい感じで韻が踏める3人は実際のキャリアにおいてもヒーロー映画に振り回されている、そんなところにキャスティングの妙が伺えます。
(先週ご紹介した「マジック・イン・ムーンライト」に続き、コメディエンヌとして抜群にセンスがあるエマ・ストーン。
本作ではちょっと影のある女の子の役ですが、そんな役もきゃわいい!)
そして語られるべき2つ目はまるで全編ワンカットで撮影したかに思える撮影と編集。「ゼロ・グラビティ」における13分間の長回しで冒頭から瞬時に我らを宇宙に誘った撮影監督エマニュエル・ルベツキのテクが今回も光ります。初めて観た時はそのあまりの画力にストーリーよりも「もうどうやって撮っているんだ!」と気になりまくりでしたが、この映像でドン詰まっていくリーガンの心情がまるでこちらにも迫ってくるような感覚になっていきます。
そしてドンドン追いこまれるリーガンの内面をもう一つ表現する、3つ目の語られるべき要素がドラマー、アントニオ・サンチェスのドラム・スコア。映画の中では一部、クラッシク音楽が使われるものほぼ全編をサンチェスのドラムがリーガンの心情に合わせてリズムを刻みます。私にとっては本作を観た時に一番印象に残ったのがこのサンチェスのドラムによるリズム、ビートでした。ジャズの素養は全くない私ですが、ジャズにおけるスウィングを感じるってこういうことなのか?と。
と、この3つのポイントはきっと雑誌や新聞、ネットの映評をご覧になったら誰もが指摘していることだと思います。この3つが合わさり何とも言葉で表現出来ない高揚感を本作で経験出来ます。映画を見まくっている私ですが「今まで全く感じたことがないドキドキ体験をまだこんな風にさせてくれるのか!」と嬉しくなったのが本作です。実はこの映画の良さがどうだ、こうだとうまく語れる言葉を私は持っていません。とにかくこの映画を観ている間ずっとドキドキしていたことだけは覚えています。この手の映画は観た人がそれぞれに感じて貰うに限ります。
本作でオスカー前哨戦の主演男優賞を総なめし、アカデミー賞でも受賞が確実視されていたマイケル・キートン。しかしご存知の通り主演男優賞は「博士と彼女のセオリー」の演技でエディ・レッドメインが受賞。エディの名前が呼ばれた時に、キートンはスピーチが書かれていたと思われる小さなメモを静かにポケットに仕舞っていたと言われています。どこまでが虚構で現実なのか。このエピソード込みでこの映画が成立しているようにも思えます。
全てを手に入れ全てを手放した男はもう一度羽ばたくことは出来るのか?
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は4/10(金)よりシネマイクスピアリにて公開中です。
By.M
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