お盆も終わり、夏のピークは過ぎましたね。こんにちは女住人Mです。ちょっとゆっくりしたいな、と感じるようなこの時期には単館系の映画を観るのも良いですね。今週はシネマイクスピアリで8/22(土)から公開『チャップリンからの贈りもの』をご紹介します。
主人公はスイスに住む移民の中年男、お調子者のエディ(ブノワ・ポールヴールド)とその親友のオスマン(ロシュディ・ゼム)。エディは刑務所から出所したばかりでお金も住むところがなく、オスマンの家に転がり込みます。でもオスマンも妻が入院中で一人娘サミラとの生活もやっとな状況。そんな時にエディはチャップリンが死去したことを知り、あることを思い付きます。「自分たちみたいな貧しい移民を演じてきたチャップリンは俺たちの友達だ!友達だからお金を借りよう」と。そして思い付いたのがチャップリンの遺体を誘拐して身代金をとることだったのです。
何とも突拍子もないあらすじですが、これが実話からインスパイアされた物語というのが驚きです。1978年、喜劇王チャップリンの死からおそよ2カ月。スイス・レマン湖畔にある墓地に埋葬されていたチャップリンの遺体が棺ごと盗まれる事件は本当に起きていたのです。
実際の事件は身代金の電話を娘で女優のジェラルディン・チャップリンが受け、警察が逆探知に成功し犯人が捕まりました。遺体を墓場から掘り起こして盗む、なんて遺族のことを考えたらとんでもない暴挙な訳ですが、この映画の中ではエディが主導権を握ってオスマンにいろいろ指図しても、もともと計画の詰めが甘いし、オスマンは及び腰。二人ともドジばかり踏むヘタレ中年だし、身代金要求でチャップリンの家に電話しても軽くあしらわれる始末で、観ているこちらはそのダメダメ加減にもう笑うしかなありません。と同時に次第と何だか可哀想にもなってきます。
オスマンに至っては可愛い娘サミラがいるから悪事をしてはいけないとわかっていても、入院中の妻の治療費が払えないことで苦しんでいる。母親がいなくて夜に泣いてしまうサミラ・・・。もういろんなことの板挟みなんです。根っからの悪党なんかじゃない二人のドタバタを観ているとまさにそれはチャップリン自身がこれまで演じてきた主人公たちの物語と重なってくるので「チャップリン、二人をどうかちょっと助けてあげてくれないかな~。」なんて気分にもなってきます。
本作は実際に起きた事件だったこともあって、チャップリンの遺族の方の理解がとても重要なポイントでした。チャップリンの息子さんであるユージーン・チャップリンさん自身、事件自体は嫌な記憶だったので企画自体に最初は反対していたそうですが、監督の気遣いに触れ快諾されたようで、実際、ユージーンさんはサーカス支配人の役で、孫娘のドロレス・チャップリンさんがチャップリンの娘を演じ、チャップリンが埋葬された墓地がロケ地として提供されたばかりか、晩年に住んでいた邸宅が当時のままの調度品を揃え本編の中で登場します。
(チャップリンの映画さながら、お調子者のエディはひょんなことからサーカスで働くことに・・・)
「街の灯」「ライムライト」「黄金狂時代」など往年のチャップリン名画からの名シーンのオマージュが次々登場し、「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」で知られる作曲家ミシェル・ルグランの楽曲が全編を彩る(しかも、「ライムライト」のテーマ曲を巧みにアレンジした曲)という、チャップリン映画好き、おフランスな雰囲気がお好きな方にはグッとくる1本です。
弱き者の眼差しで映画を作り続けたチャップリンの精神を踏襲し、喜劇と悲劇が紙一重なペーソス漂う男たちの人生を優しく、可笑しく描いた大人な映画『チャップリンからの贈りもの』は是非スクリーンでお楽しみ下さい。
By.M
©Marie-Julie Maille / Why Not Productions