ウラシネマイクスピアリブログ

映画を愛するシネマイクスピアリの宣伝担当者が
今後の上映作品を
ウラからナナメから眺めてそっと語るオフィシャルブログ

NEW

『ブゴニア』

 この時期になるとアカデミー賞関連の作品が続々と公開されます。今回ご紹介する作品は本年度アカデミー賞作品賞、主演女優賞ほか4部門ノミネート、2/13(金)公開『ブゴニア』です。

 ある日、大手製薬会社のカリスマ経営者ミシェル(エマ・ストーン)が誘拐された。犯人はテディ(ジェシー・プレモンス)といとこのドニー(エイダン・デルビス)。彼女が地球侵略を目指す宇宙人だと信じ込んでいる彼らは「今すぐ地球から手を引け!」と要求する。ミシェルはその要求を前に正論を突き付けるが彼らは全く耳を貸さないどころか状況は思わぬ方向へ進んでいく・・・

 あらすじを聞いただけでは「なんだそりゃ?」という感じなのですが、観るとすこぶる面白い。おまけに観終わって時間が経つにつれジワジワとその面白さが増していて私、気付くと『ブゴニア』のことを思い出してしまっています。

 映画冒頭からミシェルは誘拐されるんですが、まぁこの誘拐シーンだけで見せる、魅せる。こんなお粗末な誘拐があっていいのか、という感じでここからもう最高!ここまでの人物紹介~誘拐に至る一連の流れの手際がいいこと、いいこと。「こりゃ、満足度高い映画に違いない」とこの時点で確信です。

 そして本題、ミシェル監禁へとなだれ込みます。テディとドニーは次の月食までの3日間で彼女が母船に連絡をとることで地球を危機から救おうとしています。「そんな荒唐無稽な話ありかよ?」と思うかもですが、彼らはインターネット上の陰謀論などにすっかり陶酔している陰謀論者。ミシェルの髪は母船との通信に使われるGPSだからとすぐ丸刈りにされ、髪は燃やされるぐらいにマジ。

 自分の信念に疑いのないテディを前にミシェルの正論は通じる訳もなく出口のない絶望的な議論が無機質なキャッチボールのごとく繰り返されます。テディを演じるは『シヴィル・ウォー アメリカ最後の日』で「お前はどの種類のアメリカ人だ?(What kind of American?)」のセリフだけで全世界を恐怖に陥れたジェシー・プレモンス。「この人には何を言っても通じない」と思わせる演技力、本作でも発揮。プレモンス無双!

 でも途中、挿入されるテディの記憶や日常場面によって彼が社会からこぼれ落ちた人間であることがわかります。そういう弱さに巧みに侵食していくのが陰謀論。彼の狂気は孤独と共にあり、陰謀論にハマる愚かな人間と茶化す描き方はしません。SNS社会にどっぷり浸かった現代社会で信じたいものだけを信じ、対話を止め、どんどん自分だけの世界に閉ざされ、その加速度は増す一方。我らは安全な場所からテディを笑える立場にはいないハズ。

 ミシェルにしろ、テディにしろ、自分たちが信じる正義を疑わず、お互いのコミュニケーションが永遠に堂々巡りを続けるかもしくは一方が暴走の限界に達しそうになる時、あることをきっかけにこの誘拐監禁事件は大きな展開をみせ、まさかの着地点を迎えます。

これまた「なんじゃそりゃ」なエンディングですが、俯瞰でこの顛末を観た時にこの皮肉は絶望的であると同時にとても平和的であることこの上なく、「なんて発想!なんて映像なんだ!」と天を仰ぎ見てしまうこと間違いなしなんです。

 本作の監督は主演のエマ・ストーンとはこれで4回目のタッグのヨルゴス・ランティモス(『女王陛下のお気に入り』『哀れなるものたち』ほか)、製作にアリ・アスター(『ミッドサマー』ほか)と聞けば、さもありなんな1本ですが、とっても今的なエンタメ映画に仕上がってます。韓国のカルト映画『地球を守れ!』を現代アメリカに舞台を変えたリメイク作品ではありますが、その予習の必要全くなし(むしろしないで!)。『ブゴニア』というタイトルはネタバレを含むのでそのワード検索も必要なし。まっさらな脳みそでのご鑑賞をオススメいたします!

“人は信じたいものだけを信じる”・・・現代の格言です。

By.M