ウラシネマイクスピアリブログ

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『落下の王国 4Kデジタルリマスター』

  “幻”の名作が4Kデジタルリマスターとしてスクリーンに帰ってきた!今回ご紹介するのは待望のリバイバル上映11/21(金)公開『落下の王国 4Kデジタルリマスター』です。

 本作の日本公開は2008年。当時、シネマイクスピアリでも上映したのでご覧になった方がいらっしゃるかもしれません。監督のターセム・シンは映像作家、CMディレクターをきっかけにブレイク。『ザ・セル』で長編映画監督デビューをし、本作が2作目の監督作。構想26年、私財を投じてまでこの映画を作るべく熱意を燃やした彼の元にはデビッド・フィンチャー(『ファイト・クラブ』)、スパイク・ジョーンズ(『her/世界でひとつの彼女』)が強力サポーターとして加わり、『ザ・セル』でもタッグを組んだ世界的デザイナー石岡瑛子(『ドレキュラ』でアカデミー賞衣裳デザイン賞受賞)がコスチュームデザインを担当しました。

 舞台は1915年。映画の撮影で大怪我を負ったスタントマンのロイ(リー・ペイス)。病室のベッドで自暴自棄になっていた彼は同じ病院で入院していた5才の少女アレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)と出会い、動けない自分の代わりに薬剤室から自殺用の薬をもってこさせようと彼女に即興の物語を語り始める。それは愛する者や誇りを失い、深い闇に堕ちた6人の勇者が悪に立ち向かう叙事詩だった・・・

 そう、本作はロイとアレクサンドリアが入院している病院内の現実の世界と、ロイが少女に語る壮大な作り話が平行して進み、その物語のパートをターセム独特のビジュで描いていくのですが、それがもう本当に圧巻!!ロケ地は13以上の世界遺産を含む世界24か国以上。CMやMVで実力をつけたターセムなだけあって、その映像は大胆と繊細さが同居する壮大な美、美!このような地がこの世界のどこかに存在しているなんて、と息をのむほど。

ベートーヴェンの交響曲第7番:第2楽章を始めとした荘厳な音楽、幻想的な風景、そして石岡瑛子による衣裳が加わり、本編中どのショットを切り取っても一枚絵になるほどです。それをほぼCGを使わずに撮影に4年をかけて(しかも自腹投入で)撮影しているという・・・もう奇跡のような1本なんです。

 でもそんな彼の才能を見抜き、サポートする者がいる一方、本作は公開当時、こんなに名作にも関わらず大ヒットすることはなく、ソフトも廃盤になり、また本作における権利関係が複雑だったために再映や配信で観る機会もなく、長い間知る人ぞ知る存在だったんです。公開時に一目でこの映画の虜になった私は「権利がクリアになった暁にはぜひ、配給権を買ってほしい!」と可能性のありそうな映画会社の方に何度勝手にお願いしていたことか・・・そんな私にとっても今回の4Kデジタルリマスターでの復活上映は長年の夢叶うの巻でした。

 そして圧倒的な映像美をスクリーンで浴びてほしいという思い以上に私がこの映画に魅了された理由は本作が物語ること、物語の力を描いたところなんです。撮影事故で仕事を失い、恋人まで奪われ自ら命を絶つことを選んだ男が紡ぐ物語は絶望へと進みそうになりながらも、少女にはイマジネーションの力を与え、希望となり、ひいてはロイ自身の人生も変えることになります。物語、夢を見ることが現実を打ち勝つパワーを持ち得るというメッセージ、私、大好物!!

 加えて本作はキャスティングがさらにこの映画を完璧なものにしました。アレクサンドリアを演じたカティンカちゃん、当時5才だった彼女はその年齢もあって物語と現実を行き来しているような少女だったと言います。そのためロイを演じたリー・ペイスとのやり取りはおおまかなことだけ決めて、あとはアドリブ。途中、カティンカちゃんが素で返答しているようなシーンもこの映画のチャームになっていて、年の離れた同士となった二人の関係性もとっても魅力的です。

 前述したよう、映画ファンがずっとこの映画を観ること、スクリーンで再び出会えることを切望した本作がついに映画館で観られるこのタイミング、都内の単館系映画館では満席が続いています。見逃さないでーーー

By.M