『ヤンヤン 夏の想い出 4K レストア版 』
昔フィルムで公開されていた作品をデジタルリマスターし、映画館で再び観ることができる、そういった作品のヒットが続いています。最近だと『落下の王国4Kデジタルリマスター』が記憶に新しいところ。こういった取り組みで公開から時を経て再び映画が脚光を浴びるのは素晴らしいことです。今回ご紹介する作品は台湾、東京、熱海を舞台に描く1/9(金)公開の『ヤンヤン 夏の想い出4Kレストア版』です。

小学生のヤンヤン(ジョナサン・チャン)は父NJ(ウー・ニェンツェン)と母ミンミン(エレイン・チン)、高校生の姉ティンティン(ケリー・リー)、そして祖母と5人暮らし。何不自由ない生活を送っていたが、母の弟アディの結婚式を境に一家に様々なトラブルが舞い込んでくる・・・

本作は台湾と日本合作映画ではありますが、2016年イギリスBBC主催の「21世紀の偉大な映画ベスト100」で8位、2023年ハリウッド・リポーター(エンタメの業界誌)による「21世紀の映画ベスト50」では1位に輝くといった具合に多くのファンに愛されている映画の1つ。なぜこのようなアジア映画が多くの人の心を掴むのか、様々な理由はあれど1つにはこの作品が普遍的なテーマを描いているからだと思います。そう、それは“人生”について・・・。

私は「人生ってままならない・・・」と、しみじみ感じさせてくれる映画が大好物ですが、本作はまさにそんな映画なんです。登場人物は生まれたばかりの赤ん坊から昏睡状態のおばあちゃん。レイヤーのように描かれる様々な年代の登場人物は各々悩みを抱え悶々とし、自分の置かれている状況さえ理解できていない者も・・・。

うまい話にすぐ騙され、人生のギリギリまで追い込まれる者、他者はおろか自分とさえうまく向き合えない者、昔の記憶が美化され再燃し、足を踏み外しそうになる者などなど。ここに出てくる登場人物は誰もが生きることが下手、下手過ぎる。

でもそれは第三者の行動を映画を通して俯瞰で観ているからそう感じるだけで、往々にして我らの人生もこの映画に出てくる人たちと然程変わらないんじゃないでしょうか?少なくとも私の人生、そんな感じです。
生きていると自分ではどうにもならないことが突然降って沸いてくる。そんな出来事を前に成す術もなく立ち尽くしたり、泣いてみたり、右往左往したりとなんと人間は無様な生き物なのか。

それでも気付けばお腹はすくし、いつしか眠りにつき、朝を迎え、また新しい一歩を踏み出すしか道はありません。たとえ問題に明快な答えが出なくても・・・と書くと、本作が悲観的な映画に思われるかもしれませんが、ふとした時に受け取る言葉や偶然性によって人は前に進めるように、この映画の中でもそんな瞬間がいくつか用意されていて、その多くがヤンヤンのシーンに託されていて、それがまたなんとも言えず心を満たしてくれます。

タイトルは『ヤンヤン 夏の想い出』ですが、実は彼の目を通して語られる部分は多くはないのですが(むしろこの映画のメインはお父さんのNJ)、まだ何者でもない無垢な存在としてのヤンヤンが人生の真理(のようなもの)を提示してくれるシーンのお陰で「こんな世界でも明日という絶え間なく訪れる新しい一日を恐れることなく迎えよう。」、そんな気持ちにさせてくれるんです。

監督は台湾を代表するエドワード・ヤン。本作完成の頃から癌を患い、2007年に死去。59歳の若さでした。寡作ながらもどの作品も唯一無二の存在感を放っていただけに、エドワード・ヤンの新作が観られないことがとても寂しい。けれど、同じ作品を観るにしてもタイミング、年齢によって違う感情を受け取ることが出来るのが映画の醍醐味でもあるので、私は本作がスクリーンでかかる度に映画館に足を運び、この映画との新しい出会いを経験し、その喜びを噛みしめるんだと思います。だって名作はいつまでも色褪せないものだから・・・・
最後になりましたが、気付けばお正月もあっという間に終わり新年がスタートしてしまいましたが、2026年もシネマイクスピアリを宜しくお願いいたします!
By.M
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