ウラシネマイクスピアリブログ

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『ぼくの名前はズッキーニ』

 皆さんこんにちは、女住人Mです。人形などを1コマごと少しずつ動かして撮影し、繋ぎ合せて1本の映像にするいわゆる“コマ撮り”で作られるストップモーション・アニメ、この手法を使った映画の多くは傑作揃い。『ひつじのショーン』、『コララインとボタンの魔女』、最近だと『KUBO クボ/二本の弦の秘密』といった作品がそうで、制作工程に気が遠くなるような手間と時間がかかるため根気強さや何より深い愛情が必要なので総じて傑作が多いのか?なんてことを考えますが、そんなストップ・モーションアニメ映画の新たな傑作、2/10(土)公開『ぼくの名前はズッキーニ』をご紹介します。

 主人公は大きな目、ブルーの髪が印象的なイカール君、通称“ズッキーニ”。パパが家を出てからビールばかり飲んでいるママと二人で暮らしているズッキーニはいつも一人ぼっち。なのに不慮の事故でママもいなくなり、警官のレイモンに連れられ孤児院のフォンテーヌ園に引き取られます。始めこそ手痛い洗礼を受けるズッキーニですが次第と自分の居場所を見つけていきます。

と、やんわりあらすじを書いてみましたが、可愛い人形でもって描かれるから一見ほんわかした気持ちで観られるのですが、彼の現実は相当厳しい・・・。幼くして一人ぼっちになり、孤児院での生活。イカールという名があるけれど、お母さんが付けてくれた“ズッキーニ”という呼び名こそが自分の名前と譲りません。それは自分へ全く愛情を与えてくれないママが唯一彼に与えてくれたのがそのニックネームだったから?もう最初からこちらも涙目です。

そして孤児院では様々な理由で一人ぼっちになった子供たちが集まっています。いじめっ子、ほとんどしゃべらない子、目立たないけどいつも優しい子、いろんな子供たちがいますがコミュニケーションがうまく取れない子ばかり。それもきっと必要な時に愛されていなかったからなんだろうな、だから人との接し方もわからないんだろうな、不安になると物にあたったり、意地悪をしたりするんだろうな、というのがこちらにはわかるので、もう切ないったりゃありゃしない。

でもそういった現実の厳しさがことさら全面に出ているという訳ではなく、ズッキーニを始め子供たちはとても愛おしい存在として描かれます。ズッキーニもいつしかみんなと仲良しになり、くだらないことで笑ったり、喧嘩したりと日々を過ごしていた、そんな時にカミーユという名の女の子が新たにフォンテーヌ園にやってきたことで彼は初めて“誰かを好きになる”という感情を知るのでした。

この映画を観ていると人は一人では生きていけないことを痛感します。他者と関わることで傷ついたり、傷つけたりすることもあるけれど、自分ではない誰かと触れあうこと、どんなに狭くても社会に属することで人は世界を知ることが出来ます。人と関わることで自然と他者を知ろうとするし、それが結局は自分を知ることにもなる。その積み重ねや経験で人は生きる術を見つけていくような気がします。だからこそ、特に子供はひとりぼっちになってはいけないし、ひとりぼっちにさせてはいけない。

孤児院はとても悲しい場所の符号かもしれませんが、この社会に属したことでズッキーニは幸運にも愛すること、愛されることを知り、大人も悪い人ばかりじゃないことを知り、日々の暮らしの中でいろいろな発見をしていくのです。本当はその基盤が自分の家庭であることが一番なのですが、それでもズッキーニや他の子供たちもここに来られたから仲間が出来、世の中には悪いことばかりじゃない、ということを知れたと思うと、大人、社会の役割って本当に大切なんだな、と思うのです。

 この映画はズッキーニを中心とする子供たちのお話ですが、とても大切なメッセージをサブキャラ的存在のいじめっ子シモンに語らせます。その演出がまたとっても愛おしく、また映画の終盤でズッキーニとカミーユに訪れる幸福な出会いに涙が止まらないのでした・・・

 映画を観た後「あの子たちは元気かな~」と思わせてくれる映画は傑作!という私のセオリーを証言する本作は、大人にこそ観ていただきたい1本です!!