『ANORA アノーラ』
先日3/3(月)にアカデミー賞の受賞式が行われました。この作品が主要部門を取るんじゃないかと予想していましたが、思った以上の結果にビックリ!でもそれぐらい皆に愛された作品だった表れなんでしょう。今回は本年度のアカデミー賞で作品・監督・脚本・編集・主演女優賞と最多の5冠を獲得した2/28(金)公開『ANORA アノーラ』をご紹介いたします。

主人公のアノーラ(マイキー・マディソン)はNYのストリップダンサー。ロシア人の大金持ちの息子イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)に見初められ、多額の報酬で1週間、彼の“契約彼女”に。パーティ、ショッピング三昧で散財し、勢い余って二人はラスベガスで電撃結婚をしてしまう。そこから彼女の人生がさらに動き出していきます。

監督のショーン・ベイカーは徹底して社会の片隅に生きる人を主人公に据え、そこでしか生きられない彼ら彼女たちを決してジャッジすることなく、その姿を真っすぐに描き続けてきました。そんな彼が今回主人公に選んだアノーラは生命力に溢れ、情熱的で刹那に生きているから危なっかしさもある。でもワンチャンのし上がってやる!という逞しさの方が俄然勝っている彼女はまんまとシンデレラストーリーにのっかって弾けまくります。相手は「人生チョロイ」と思っている若者イヴァン。お金でもって結ばれ、そこから意気投合した彼らに道徳心なんてほぼ皆無。若者が貪欲であることってもうパッションでしかないから、その勢いにこっちもやられちゃうんです。

でもこの映画の面白さはイヴァンの両親が二人の結婚を決して認めず、離婚させようと手下たちを二人の元に送り込んでからが本番です。あまりのドタバタ展開に笑いを我慢する方が無理。久しぶりに映画を観ながら吹いてしまいました。そのシーンの絶妙な長さといい、アノーラの遠慮ない応戦っぷりといい、両親が怖くて逃げだしてしまうヘタレのイヴァンといい、そんな彼を全くコントロール出来ない手下たちのダメさといい、前半部分とまた違った魅力が顔を出していくのです。

後半はせっかくアノーラが手にした幸せが簡単に手からこぼれ落ちていく様を描いていきますが、それでも彼女は運命に抗い続けます。だって絶対幸せになりたいから。何事にも貪欲過ぎる彼女に誰もが感情移入できる訳ではないと思うけれど、自分の生き方を信じ、まっすぐに「幸せになりたい」と願い、それを自分でつかみ取ろうとするアノーラを疎外する権利なんて誰にもないし、必死かつエネルギッシュな彼女にどんどん魅了されるていくと思うんです。

物事を表面的な部分でしか見ない人たちはアノーラを簡単に傷つけようとするから彼女は心に鎧をまとわざるを得ないけど、その心のやわらかい部分を見ることができる男性の登場はこんな世の中でも我々が信じることを諦めたくない小さな光を体現しているようで、彼の存在がアノーラの(そして観ている者の)心をかき乱すラストに彼女を抱きしめたくなるし、アノーラがこの先、本当に望むものを手に入れることが出来ますように・・・と願って止まない余韻を残していくのです。やるせないよーー。

本作を気に入った方にはぜひショーン・ベイカーの過去作品、特に『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』や、強い印象を残すイゴールを演じアカデミー賞助演男優賞にもノミネートされたユーリー・ボリソフ出演の『コンパートメントNo.6』も一緒におススメします☆
By.M
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