『希望の国』

|

 みなさん、こんにちは。女住人Mです。前回ご紹介した「アウトレイジ ビヨンド」の北野武監督同様、国内外で人気の高い映画監督と言えば園子温(その しおん)監督だと思います。
今回はそんな園監督最新作、本年度トロント国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞した10/20(土)公開『希望の国』をご紹介します。
kibmain.jpg

 舞台は架空の地・長島県大原町。人々が穏やかに暮らしていたこの地を大地震が襲い、それが引き起こした原発事故で市民の生活は一変します。原発から半径20?`圏内が警戒区域に指定され、境界線たった一つで警戒区域と非警戒区域に分断され、家を無条件に追われ避難所へ向かう者、その地に留まる者へと分かれます。本作では未曾有の災害を経験することになった人々がそれぞれの思いを抱え、それぞれの人生を生きようとする姿を描きます。
kibsub1.jpg
(境界線で分けられる、あっちとこっち)

と、あらすじを読んで頂いておわかりの通り、これは福島第一原発の事故をモチーフに描かれた物語です。3.11が引き起こした日常は誰しも経験したことがなかった稀有な体験でした。普段であれば“映画”と言うエンタメも人々の心を癒したり、楽しませたり出来る存在ですが、震災直後は全くもって役立たずで、「娯楽は生きる上では必要ないんだ」と思わされました。(豊かに生きる上では必要なんですけどね)でも、時間が経過し、次第と人々が娯楽を求めるようになりました。でも、それは見たくないものを(ほんのひと時でも)見ないようにするため、そういった類の娯楽が多かったのだと思います。それはそれで必要な娯楽ではあると思うのですが、誰の心にも「このままで良いのかな」と言う気付きはあったと思います。そしてそんな中、園監督は“原発”と言う今最も日本がタブーとしている題材をモチーフに本作を作り上げました。でも園監督はメッセージ性が強いものを作りたかった訳ではない、原発のいい、悪いを問いたかった訳ではない。映画は巨大な質問状を叩きつける装置だ、と語っています。園監督は報道番組のように“情報”を記録するのではなく、被災地の“情感”、“情緒”を記録したかったと。

 本作では3組のカップルの物語を中心に原発事故が人々にどういった感情を引き起こし、それによってどういう生き方を選んでいくかを描きます。特に、大谷直子さん演じる認知症を患う妻とそんな妻を心から愛し、守り続ける夫・泰彦を演じた夏八木勲さんの口から発せられる台詞の一つ一つは胸に迫ります。本作における大谷さんと夏八木さんの演技はまさに渾身の演技で、お二人に人としての深さがあるからこそ、そして、それをこの役に昇華しているからこそ、こんなに素晴らしい演技が出来るんだと打ちのめされます。お二人の演技はそれを越え「このままで良いのか」と思っている日本人の心に必ずささります。と、同時に極限状態の中で、自分が自分であるために、そして愛する人を心から愛するが故に選択する泰彦の行動を見るにつけ、この映画は間違いなくむきだしになった人間の愛を描いた作品にも見えたのでした。
kibsub2.jpg

たとえ暗闇の中にいようとも、だからこそ人は一筋の光を強く求めて生きるし、希望と言う名の光を見失わないように生きていく・・・・誰かを強く守りたいと願い、誰かを愛し続けるってなんて美しいんだろう、そう強く感じたのでした。

 By.M
© The Land of Hope Film Partners

カテゴリ

2015年9月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30