すっかり秋深くなり、いろんな事をじっくり考えたくなる、そんなしっとりした季節になりましたね、こんにちは女住人Mです。
今回ご紹介する作品は10/28(日)にシネマイクスピアリでのティーチイン舞台挨拶付き上映会も決定している周防正行監督の最新作10/27(土)公開『終の信託』です。
タイトル『終の信託』とはまさに文字通り、自分の命の終わりを信じる誰かに託すこと。主人公の折井綾乃(草刈民代)は患者からの信頼も厚い呼吸器内科のエリート医師ですが、不倫関係にあった同僚医師・高井(浅野忠信)との関係が壊れ自殺未遂を起こしてしまいます。そんな時に重度喘息を患う江木(役所広司)から優しい言葉をかけられ綾乃は医師として立ち直るきっかけを得ます。それを機に二人は心を深く通わしていきますが、江木の病状は悪化の一途を辿っていくのです。自身の死期を察知していた江木は自分の最期を主治医である綾乃に信託することを告げます。2か月後、心肺停止状態で搬送されてきた江木に綾乃は約束通りの行動を取るのですが、それから3年後・・・綾乃は江木に対する殺人罪で検察官に追及されることとなります。
本作は尊厳死をモチーフに描かれた作品です。“死期”については常日頃考えていなくとも、ひょんなことで誰しも考えることですが、そういう瞬間はいつ自分に訪れるかわからないし、いつ自分の大切な人に訪れるかわかりません。本作ではそんないつ来るかわからないけど、自らに、近しい誰かに確実に来る“死期”への決断を映画を通して追体験せざるを得ず、物語上とわかっていてもとても苦しいやり取りが綴られます。そこには“尊厳死”、“終末医療”のあり方といった現実的な医療問題から人間的な感情論に至るまで様々な問いの投げかけがあります。
その一方、本作で江木と言う一人の男の“死期”を決めるのは主治医の綾乃、この二人の関係性が心で結びついていたと言う当事者同士には固く、ロマンチックなものでありながらも、傍から見れば理解され難いものだったために綾乃の医療行為は後に裁判へと発展し、物事をややこしくしてしまいますが、それが本作のもう一つの見所となる、検察官が綾乃を取り調べるシーンへと繋がります。
江木の死後、その医療行為を殺人罪として訴えられる綾乃を大沢たかおさん演じる検察官の塚原が執拗に取り調べます。映画前半のテーマから一転、もう、このジメっとした、息苦しさを伴う程の威圧的な取り調べシーンでそれまでの流れはガラっと変わり「あ〜、冤罪事件って、こういうことから起きてしまうんだろうな」と周防監督の前作「それでもボクはやってない」を彷彿!
(大沢さんの演技がエグ過ぎる!!塚原は嫌いになっても、大沢たかおは嫌いにならないでね!)
いや、さらにパワーUpさせた司法に対する問題も提起し、不完全である人が不完全である人を裁くと言うことが如何に恐ろしいかを改めて痛感させられるのです。これまで一つのテーマを深く掘り下げる系だった周防作品の中で多面構造的にいろいろな気付きを与える本作は、周防映画の新たな魅力を持つ代表作になる気がします。
そんなたくさんの事を語りたくなる本作だけに周防監督の口から直接映画についてお話が聞ける10/28(日)のティーチイン舞台挨拶付きの上映会がとっても楽しみな私なのでした。(詳しくは劇場HPのトップ画面をご参照下さいませ)
By.M
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