花粉なのか風邪なのか・・・いつからこんなに私はヤワになったのか・・・女住人Mです。
今回ご紹介する映画は「これから年を重ねていき、もっとヤワになっていった時、私は一人で生きていけるかしら?」と
考えあぐねることとなる『愛、アムール』です。
本作は2012年カンヌ国際映画祭パルムドール<最高賞>、2013年アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品です。
パリの高級アパートで暮らす音楽家の老夫婦ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)が主人公。満ち足りた日常を暮らしていた二人ですが妻・アンヌの発病によってそれは一変します。アンヌは手術をするも右半身が不自由になってしまいますが、「もう二度と病院に戻さないで」と強く夫・ジョルジュに懇願。その日からアンヌは自宅で車椅子生活を始めます。献身的にアンヌを支えるジョルジュですが、病状はどんどん悪くなっていき、次第と世間からも夫婦は孤立していくことになります。
さて、皆さんは本作の監督・ミヒャエル・ハネケの作品をご覧になったことはあるでしょうか?ハネケ監督の作品はカンヌ国際映画祭といった特にヨーロッパでの映画祭では常連受賞する程、とても有名な監督さんです。が、その取り扱うテーマがいつも挑戦的と言うか、時に神経を逆なでされる程の表現で観客を苦しめます。日本でもハネケと言う存在をしらしめた「ファニーゲーム」は私の中のトラウマ映画の1つです。なので今回『愛、アムール』と言うタイトルでありながら、ハネケがどんな方法で“愛”を描くのか、ビクビクしながら見たのですが、間違いなくハネケ映画でありながら、こんなに優しさと美しさが共存したハネケ映画は初めてだ!と感じました。まさに“愛、愛の映画だ〜!!”と。
(名優二人に演出をするハネケ監督(左)。劇中、印象的に登場する鳩にすら演出。抜かりはない!)
これまでも「老い」や「死」の現実を描いた映画はあったと思いますが、『愛、アムール』はどれにも属さない映画です。仲睦まじく、満たされた生活をしていた二人だったのに、病のせいでアンヌの容態はどんどん悪くなります。アンヌは夫や看護師の助けがないと何も出来なくなります。その過程では苛立ったり、子供のようにわがままを言ったり、しゃべることもままならなくなったり・・・見ているこちらはどんどん苦しく、鬱々とした気持ちになっていきます。でもそこに中途半端な感傷やおセンチな情景なんて一切なしです。ドラマティックなBGMはおろか、あるのは生活音だけ。ただそこには率直なまでの日常描写があるだけです。誰にも訪れる「老い」と「死」、それに直面する老夫婦の日常に一切目を背けることなくこの物語を描くハネケ。でもそこに安易なセンチメンタルイズムがないからこそ、二人が築いた情愛そのものが浮かび上がっていくのです。
(老夫婦の娘エヴァ(イザベル・ユペール)の存在とその描写がまた何とも言えない!)
ハネケは現代社会が抱える問題をただ描いたのでなく、それを通して見える人間の“愛情”を描こうとしたのだ、と思うのです。身体が不自由になったアンヌを抱き抱え、ベッドから立ち上がらせたり、トイレに行かせるシーンがふと愛溢れる抱擁のシーンに見えた時、そんな気がしたのです。
本作はハネケ監督の演出手腕により威厳ある作品になったことはもちろん、老夫婦を演じたジャン=ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァ(本年度アカデミー賞主演女優賞ノミネート)の至高の演技によって完成されたことは言うまでもありません。
是非、本作で“愛”について考えてみませんか?
『愛、アムール』はシネマイクスピアリで上映中です。
By.M
©2012 Les Films du Losange-X Filme Creative Pool-Wega Filme- France3 Cinema-Ard Degeto-Bayerisher Rundfunk-Westdeutscher Rundfunk
© Denis Manin