『しわ』

|

 皆さんこんにちは、自分で言うのも何ですが実年齢より若く見られる女住人Mです。とは言え、年を重ねてくると、物事の概要は詳しく言えるのに、実態の名前が出てこずに、「あわわ、あわわ」することしばし・・・だから本作を見た時にはいろいろなことを考えてしまいました。今回ご紹介するのは「老い」について描かれた作品『しわ』です。
Shiwamain.JPG
(本作は高畑勲監督と宮崎駿監督がすすめる“海外の優れたアニメーションを紹介する”三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーの作品です。)

 本作はスペインの漫画「皺(しわ)」を元にスペインの若いアニメーター、イグナシオ・フェレーラスが監督した長編アニメーションです。主人公は認知症のために養護老人施設に入居することになった元銀行マンのエミリオ。自分が認知症であることを認めたくないエミリオは施設に入れられたことに憤りを感じながらも、いろいろな事情、そして症状を抱える友を得ながらここで暮らしていきます。
shiwa03.jpgのサムネール画像

 本作は、誰にもやってくる「老い」や誰しも避けたいと思う「認知症」と言うシリアスなテーマを真正面から描く真摯な作品です。
目を背けたいと思いがちなテーマですが、本作では冒頭から観ている人の心を惹きつけます。
銀行の支店長エミリオは若夫婦に融資の相談を受けています。「我が社ではお受けかねます」と断りを入れるエミリオの回答に憤慨する夫婦。しかしそれが一瞬でエミリオが元銀行マンであり、現実にはベッドの上でその若夫婦に説教を受ける老人であることを表現するシーンへと繋がります。一気にこの映画の世界観に没入させられる、まるで1.2.3でマジックをかけられたようなシーン。

エミリオの意識は交錯していて、自分が年をとったことを知りつつも、まさか認知症であることには気付いていません。だから、息子夫婦(特に息子)が自分にあたり散らし、苛立つことが我慢できません。認知症になった者とその家族の典型的な風景です。アニメーションであるのに、際立つリアルな感覚。私は一瞬でエミリオの心と同化してしまいました。

 エミリオは自分の状況をうまく理解しておらず、むしろ理解したくないとさえ思っています。施設に入ることで様々な状況におかれる仲間たちを見て、自分もそのうちの一人だと思いながらも、それに目を背けようとします。「老い」を受け止められないがためにエミリオはさらに苦悩します。施設に長く暮らしていて、シニカルなミゲルはそんなエミリオに対し「ここで生きると言うことは(老いると言うことは)自分を騙し続けるか、現実と向き合うか、どっちかしかないんだ」と時にシビアにそう伝えます。でも「キレイごとばかり言ってられないんだ」、そう語りながらも症状が進行していくエミリオの姿を見て、ミゲルは彼に寄り添うようになります。ミゲルは皮肉屋でたまにこざかしい行動を取る男ですが、そんな彼が一番温かく、大きな心を持って皆と接し、本作で一番魅力的な人物としても描かれます。
shiwa01.JPG

「老い」も「認知症」も現実としてはとても重たい問題であることは間違いありません。
本作を観ている間も不安、憤り、悲しみといった感覚にふっと襲われることもあります。でも現実から目を背けることでは何も得ることはありませんし、誰しもが必ず通る道を行く人がどんな状況であろうと、その人がとても尊い存在であることに変わりはありません。そんなことを優しく、時にストレートに、でもユーモを交えて、この作品は伝えます。だから、現実を見つめ続けるミゲルに対し、最後に見せるエミリオの表情は観客にいろいろな感情を抱かせるのだと思います。

 “しわ”はその人が生きてきた証なので、それをきっちり受け止められる生き方がしたいなと思ったり・・・
『しわ』は6/22(土)よりシネマイクスピアリにて公開中です。

By.M
(c)2011 Perro Verde Films - Cromosoma, S.A.

カテゴリ

2015年9月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30