『かぐや姫の物語』

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 みなさん、こんにちは。女住人Mです。今年はジブリ作品が2作品上映される贅沢な1年となりました。
今回ご紹介するのは高畑勲監督待望の新作11/23(土)公開の『かぐや姫の物語』です。
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 物語は私たちが昔から良く知っている「竹取物語」をほぼそのまま忠実になぞる形で進行します。竹取りをしていた翁<おきな>(地井武男)が竹の中にいる女の子を見つけ、かぐや姫(朝倉あき)として媼<おうな>(宮本信子)と大切に育てます。すぐに美しく成長した娘は高貴な人々に求婚されますが結婚の条件として無理難題を言い、次々とそれを断ったあげく、満月の夜に迎えにきた使者と月に帰って行くと言うもの。
そこに高畑監督は“なぜかぐや姫が地球に心を残し、月に帰ることにあれほど嘆き悲しんだか”、“かぐや姫は何のために地球に来て、月へ帰ることになったのか”について誰も知らない・・・その彼女の冒した罪と罰について語るため、彼女の“心”、“かぐや姫の本当”を描き出したのが本作です。
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 高畑監督は根っからの(アニメーション)監督です。宮崎監督のようにご自身で絵を描かれないので、作画監督や美術監督を特定し、彼らの個性を活かし、物語を設計、演出していきます。そしてこれまでも高畑監督作品を担当していた田辺修さんが人物造型・作画設計を手掛け、「となりのトトロ」や「もののけ姫」などで美術監督を務めた(あの背景画でお馴染みの)男鹿和雄さんが本作にもあたっています。最近の主流アニメーションとは全く異なる、水彩画のような丁寧な温かみのあるタッチが特に本編前半、そして終盤で描かれる里山の美しい四季を見事に表現し、かつかぐや姫を始め登場人物の表情を豊かに、躍動感溢れるものにしています。私はアニメーション知識に全くもって疎いのですが、スクリーンに広がる美しさ、シンプルなのに感じることが出来る力強さ、疾走感などはこれまでにない感覚を覚えました。

 前半は絵の美しさ、かぐや姫がまだ幼い時のその可愛さが印象的なのですが、大人になり都に上がり、かぐや姫の“心”が語られる内にどんどんこちらの心がかき乱されていきます。かぐや姫はある理由によって地球に降り立っています。地球には溢れる自然、様々な生き物がいて、輝きに満ち、色彩に富んでいます。けれど地球上の人間は喜怒哀楽と言った情に振り回され、争いすら引き起こします。そんな地は月の世界から見ると取るに足らない、賤しい場所なのです。でもそんな地に憧れをもつかぐや姫は自然を愛し、その営みを愛するのですが、都へ上がり良い伴侶を得ることを第一と考える翁の行動に、嘘をついてまで結婚をしようとする求婚相手に傷つき、自分のせいで命を落とす男の存在に「自分はそこまでの者ではない」と戸惑います。
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あんなに憧れた地であったのに、自分はこの地での生を謳歌出来ず、ましては失望していることにショックを受けるのです。でもかぐや姫にもここで生きたかけがいのない想い出があります。「いや、それでもこの地は生きる歓びに溢れる場所である。私はこの地で生きることが出来るはずだ」と思い直すことで、この地に留まりたいと願います。
が、時すでに遅し・・・・

 かぐや姫の視点で語られる本作は彼女にとってはとても悲しい物語ではあるのですが、なぜかそれと同時にこの地で生きることの歓び、怒り、悲しみ、儚さ、全ての感情をひっくるめて、「生」を受けていることの純粋な素晴らしさが伝わるのです。
それはやみくもに「この世界は生きる価値がある」とか「生きろ」とか言われるよりも、この映画を観たことでストレートに感じることが出来たメッセージだったのです。

 そして、観た方が必ず感じられるであろう、本作が遺作となった翁の声を演じた地井武男さんの表現者としての凄さは圧巻です。日本アニメーションでは出来た画に声をあてる、アフレコ(アフターレコーディング)が主流ですが、本作ではプレスコ(プレスコアリング)と言われる声を先に取り、その声、演技を元に画を描く方法を取っています。2011年夏にその工程でとられていた為に完成していた地井さんの声優としての演技は亡くなられたから、と言う感傷を度外視して本当に素晴らしいものとなっています。

 かぐや姫の感情を通して “生きる”ことで味わうこと、味わうべきことに気付かされた時、知らずと涙が溢れ、本作のみなぎるパワーに圧倒されました。是非スクリーンでご堪能下さい!

By.M
(C)2013 畑事務所・GNDHDDTK

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