みなさん、こんにちは女住人Mです。
今回ご紹介する作品は本年度アカデミー賞作品賞、主演女優賞など4部門にノミネートされた『あなたを抱きしめる日まで』です。
主人公のフィロミナ(ジュディ・デンチ)には隠し続けていた秘密がありました。それは彼女がまだ10代の頃。未婚のままに妊娠してしまったフィロミナは修道院に入れられ、過酷な労働を強いられながらも男の子を出産します。そして3年後、修道院は金銭と引き換えにアンソニーを養子に出してしまいます。この事を口外することも、息子を探すことを禁じられたフィロミナ。当時、絶対的権力をもっていたカソリック教会にはむかうことも出来ず、月日は流れ・・・。そして50年の時を経て、娘に紹介された元ジャーナリスト、マーティン(スティーヴ・クーガン)と共にフィロミナは息子を捜す旅に出ます。
本作はノンフィクション本「The Lost Child of Fhilomena Lee」を元に(マーティンを演じたスティーヴ・クーガンらによって)脚本が書かれました。原作には“カトリック教会による人身売買”の事実が綴られています。アイルランドは昔からカトリック信仰が深く沁み込んでいる国です(現在でも国民の8割はカトリックを信仰していると言われています。)。そんなアイルランドにおいて婚外子を身ごもると言うことは「堕落した女」の烙印を押されたも同然で、こういった女性が修道院施設に追いやられ、強制労働を強いられた上に子供は3歳で裕福なアメリカ人に「寄付」と称し金銭と引き換えに養子に出されてしまう。このほぼ人身売買と変わらない行為に政府も関与していた事実が公表されたのが2013年2月!この映画の主人公のフィロミナもまさにこの悲劇の被害者なのです。
が、こういった物語がベースにありながらもユーモアに溢れ、むしろ笑いさえおきてしまうところがこの映画の魅力。それは前述したフィロミナの同行者マーティンを演じたスティーヴ・クーガンの脚色センス、そしてフィロミナを演じたジュディ・デンチの演技力、いや人間力です!フィロミナは30年間看護婦をしながら質素で地味な生活をしてきましたが、少女がそのままおばちゃんになったような人であまり世間のことは知りません。好きなものはロマンス小説とお得なものと、言ってみれば田舎の純粋なおばちゃんなのです。片やマーティンはBBCのジャーナリストを経て政府の広報担当として働いていたものスキャンダルで職を奪われ、フィロミナとのことを機に再起を狙っているぐらいのヤツです。そうスノッブでちょっと嫌なヤツなんです。
つまり共通点が全くない二人の旅はもはや珍道中でしかなく、マーティンの皮肉を直球で返すフィロミナとの会話は噛み合わなさ過ぎ!(笑)だからこそ、重たいテーマを描きながらも観客はまるでチャーミングなフィロミナと一緒に旅をしているような気持ちでこの物語を追っていけるのです。そして、そんな二人の旅もある衝撃的な事実で幕を引くことになるのですが・・・
本作は社会問題をきっちり根底に描きながらも、フィロミナと息子の物語、フィロミナとマーティンの物語、マーティンがフィロミナと出会ったことで得る成長物語までも描き、最終的にはフィロミナの選んだ最後の決断が“信仰”とは一体何なのか、“信仰”を特にもたいない日本人が見ても“赦す”ことの重さを改めて思い知らされるのです。
ジュディ・デンチは本年度のオスカー発表の当日、本作で主演女優賞にノミネートされていながらも「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」の続編撮影のために授賞式を欠席。その際、主演女優賞を受賞したケイト・ブランシェットはそんなジュディ・デンチに向けて「あなたみたいな女優になりたい。私もあなたみたいにこの仕事をやっていきたい」と賛辞を述べたのでした。素敵過ぎる・・・・そんなジュディ・デンチの女優としての魅力が満載な本作、『あなたを抱きしめる日まで』は4/12(土)からシネマイクスピアリにて公開です。
By.M
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