皆さん、こんにちは。女住人Mです。
今週は本年度アカデミー賞脚本賞受賞、作品賞を含む5部門にノミネートされた『her / 世界でひとつの彼女』をご紹介します。
この物語の主人公はセオドア(ホアキン・フェニックス)。妻キャサリン(ルーニー・マラー)と離婚調停中と言うこともあり、イジイジした日々を送っています。そんなある日、セオドアは最新式“AI(人口知能)型OS(オペレーティングシステム)”搭載のソフトウェアを購入。自宅のPCでOSを起動させると女性の声が・・・・。彼女の名前はサマンサ(声:スカーレット・ヨハンソン)。セオドアは毎日サマンサと会話しているうちに彼女に恋をしてしまいます。
サマンサはいわゆるiPhoneのsiriの高精度版。音声認識をするので自由に会話が出来るし、PCにインストールしているので、勝手に情報をくまなくリサーチし、持ち主に最適化することで例えば「明るい音楽が聞きたいな」と言えばすぐさまピッタリの音楽を選んでくれる。持ち主の(PC内の)パーソナルな情報を全て吸い上げ、つまりこちらの趣味、趣向を全て把握した上で、自身のそれにあった提案をするので、身近な存在にならない訳がない、と言う訳です。しかも文句は言わないし、胸ポケットに入れていつでも一緒にいられるし、自分のことを一番に思ってくれる。
加えて声があのスカーレット・ヨハンソンです。「アベンジャーズ」「それでも恋するバルセロナ」のあのスカーレット(以下、スカ嬢)です。実態もセクシーな上にハスキーな艶っぽい声を持つスカ嬢が耳元でいかなる時でもこちらを察した言葉をかけ、気の効いた会話とかしてくれるんです。恋をしない訳がない状況です。そう本作は人間とコンピューターとの恋愛を描いていくのです。
映画の冒頭では奥さんのことが忘れられずウジウジしているセオドアですが、サマンサを得てからはもう恋する乙女!見た目はばっちりおっさんですが、キラキラしちゃってるんです。恋をしている人の輝き、それは本当に眩しい!
(皆さんも憧れのあの人の声のOSが毎日語りかけてくれると想像してみて下さい。それはヤバイ、ヤバイ!)
でもこの映画を観ているとどこか何だか寂しくなるんですよね。それはセオドアが生身の人間に恋をしているのではなく実体のないOSのサマンサに恋をしているから、と言うより、セオドアはやっぱり誰かを好きになることで同じ失敗を繰り返すからです。サマンサはOSなので経験によりどんどん進化、つまりアップロードしていくのですが、その時にセオドアにはわからない本の話をしたり、意見が食い違うようになるのです。
そう、サマンサも自分を持ち始めるのです。そうなるとセオドアは急に動揺したり、嫉妬したりするのです。そう言うセオドアの姿をみると結局誰かを好きになるとエゴが出たり、自分が思っていること以上のことを相手に求めたり、大好きなあたなよりも自分の中の何かを優先してしまう。そんな人間のドロドロした部分が見えてくるのです。キャサリンとの結婚生活においても、きっとセオドアはサマンサに対して持ってしまった感情と同じようなことを求め、心が離れていってしまったのだと思うのです。
(キャサリンと幸せだった時の風景が記憶の断片のように劇中に挿入されるのですが、こういうのは本当にたまらん、たまらん。
切なくてたまらん。)
映画の中でセオドアの理解者である友人エイミー(エイミー・アダムス)が「恋に落ちるって社会的に受容された狂気よ。」と表現するのですが、まさにそれを認識してしまうのです。でも、セオドアはキャサリンとの結婚生活では対峙出来なかったことをサマンサと出会ったことで初めて向き合えるようになるのです。それを示唆するエンディングに私はとっても優しい気持ちにもなれました。誰かを好きになるというのは悲しいながらも美しいことであるな〜と。
(セオドアの良き理解者エイミー(エイミー・アダムス)。二人の仲が伺える膝カックンシーンとか
何よ、も〜。素敵すぎるよ〜。)
本作の脚本・監督はシャレオツ2大番長の一人スパイク・ジョーンズ。(もう一人はウェス・アンダーソン監督)そんな彼が作り出す世界はとてもクールでかっちょいい。セオドアの働くオフィスや、サマンサが搭載された端末、セオドアがやっているゲームのキャラクター、近未来のLAのイメージで撮影された上海、絶妙なデザインのハイウエストのズボンなどなど、自分の作品に対して細やかな心遣いをし、愛情を注げる、こういう人が作りだす世界に身を投じるだけで本当に幸せな気分にも浸れます。
これはちょっと先の未来のお話なんかじゃなく、とても現代的で普遍的でシンプルな愛の物語。
『her / 世界でひとつの彼女』は6/28(土)からシネマイクスピアリにて公開中です。
★スパイク・ジョーンズ監督「Meet the Filmmaker」@Apple Store,Ginza ★
4年ぶりに来日したスパイク・ジョーンズ監督のトークショーに行ってきました!
(左からMC:野村訓市さん、スパイク・ジョーンズ監督、衣装デザインのケイシー・ストームさん)
MC:「人口知能型OSと人間が恋に落ちるというストーリーを着想したきっかけは?」
監督:「5年前に脚本を書き始めた時は、人とテクノロジーの関係を描きたかったわけじゃないんだ。リアルに誠実に人と心を通わせることはとても難しいことだよ。今、テクノロジーのせいで人と関係が築けないと言われているけど、昔だって別の事を言い訳に同じような事は起こっていたと思うよ。コミュニケーションの形は変わっていくし、今は情報量も多い。そんな中で人と親密になることの挑戦を描いたのが本作なんだ。」
MC:「一見、現代と変わらないように見えて、よく見るとハイウエストなどとても印象的な衣装だけど、どういうところから着想したの?」
ケイシーさん:「ハイウエストは確かスパイクのアイディアだったんじゃないかな?この映画は未来ではなく、過去にさかのぼって表現しているんだ。そしてセオドアのファッションは1920年代を意識しているんです。トレンドはある程度の周期をもって回っているけどこの年代だけはなぜか戻ってきていないと感じてそれを取り入れたんだ。奇抜になりすぎず、作品の世界観を崩さない衣装になったと思うよ。」
サマンサのキャラクターにモデルはいるの?という質問には恥ずかしそうにして話題を反らしたスパイク監督。
きっと今までに付き合ってきた女性が投影されているのかもしれませんね。
その質問を受けているスパイク監督をゲラゲラ笑いながら見ていたケイシーさん。二人の仲の良さも伺えました。
By.M
Photo courtesy of Warner Bros. Pictures
Photo by Merrick Morton