皆さんこんにちは、女住人Mです。今回ご紹介する作品は最近公開されることが多くなったインド映画です。これまでの作品は歌って、踊って3時間!といった典型的なインド映画が多かったのですが、そうでないものも増えてきました。と、言う訳で10/4(土)から当館で公開、しっとりと男女の物語が綴られる『めぐり逢わせのお弁当』をご紹介いたします。
もともとインドのムンバイでは"ダッパーワーラー"というお弁当配達の仕事があります。これは家庭で作られたお弁当を"ダッパーワーラー"(5000人いるそうです)がオフィスまで配達するもので、その数1日20万個!しかもこの配達にはほぼ間違えがなく、ハーバード大学が調査したところ、誤配送の確立は600万分の1だとか。この映画は主婦のイラ(ニムラト・カウル)が夫の愛情を取り戻すために腕をふるったお弁当がまさかの誤配送により早期退職を迎えた孤独な男サージャン(イルファーン・カーン)の元に届いたことで生まれた出会いを描きます。
この"ダッパーワーラー"と言うお仕事。
お弁当配達人は家庭からのお弁当を玄関まで取りに行き、自転車に何十個も括りつけ、天候に関わらず街を走り抜け、人もはみ出して乗車しているような電車に詰め込んだりして、最終的にはそれぞれのデスクまで運び届けます。
しかもご飯が終わると同じ経路を辿り、家までお弁当は配達される。温かいお弁当がドアtoドアで運ばれるとはなんと素敵なシステムでしょう! これがなければこの映画は成立しませんでした。
主人公のサージャンは最愛の妻を亡くして以降、毎日仕事をただ黙々とこなすのみで同僚と会話をすることなく、子供に嫌われることがあっても近所付き合いをするでもなく、孤独に生きています。そんな彼の心を溶かしていくのが、"ダッパーワーラー"の間違いで届けられることとなるイラのお弁当とそれに添えられるようになった手紙。そしてそれはイラにとっても同じです。
可愛い一人娘がいながらも、娘が出来て以降、旦那さんは全く自分に興味を示してくれず、会話もほぼありません。腕によりをかけたお弁当も残すことはあっても感謝されることはなく・・・。それだけにサージャンがお弁当を綺麗に平らげてくれ、しかも心に止まる手紙のやり取りが始まり彼女の人生は彩りを得るのです。お互いの素性がわからないからこそ、手紙だからこそ、普段は言えないことを相談したり、伝えたりすることで二人の心の距離はどんどん近くなります。
でも観客はこの二人にかなりの年の差があることを予め知っていて、それぞれの状況も知っているからこそ、この二人の関係性がスムーズにいかないことは一番よく知ることとなります。それでも、イラの生活が決して幸せなものであるとは思えないこと、イラからのお弁当が届くことをそわそわしながら待つようになるサージャンがとても健気なので、この二人の幸せを願わずにはいられないのです。それがどんな形であれ、せめて今より幸せになってほしい、幸せを見つけてほしいと。
そして、サージャンの心の解放はイラとの文通だけでなく、シャイク(ナワーズッディーン・シッディーキー)という自身の後任となる男との出会いにも影響を受けます。誰とも特に親しくなるでもなく心を閉ざし続けていたサージャンですが、シャイクが無神経なぐらいにまっすぐ飛びこんでくることで、またシャイクの過去を知ることで、自分だけが辛い、悲しいと思っていたサージャンは彼に心を開くようになります。イラだけでなく、同僚とのこの出会いでさらにサージャンが変わっていくのがまた好感が持てます。
この映画ではシャイクのモットーでもある「人は間違った電車に乗っても正しい場所に着く」というフレーズが何度か繰り返されます。お弁当が間違った場所に届けられたことで出会った二人が辿りつくのは一体どんな場所なのか。その想像込みで是非本作をお楽しみください。
イラの相談相手、声だけで登場する上の階に住むおばあちゃん。
まるで天の声のようなおばあちゃんの存在と彼女の物語がまたスパイスとなっています。2013年カンヌ国際映画祭批評家週間観客賞受賞を始め世界中の映画祭で評価されたのも納得な1本です。
By.M
© AKFPL, ARTE France Cinéma, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm?2013