『バンクーバーの朝日』

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 今年も残すところ僅かになりました。皆さまも師走で多忙な日々を送られていると思いますが、息抜きの映画も忘れずに!
今回ご紹介する映画は12/20(土)公開の『バンクーバーの朝日』です。
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 舞台は1900年代初頭、カナダ・バンクーバー。この地には多くの日本人が一攫千金を夢見て海を渡ってきました。しかし、そこで彼らを待ち受けていたのは差別、過酷な労働、貧困という厳しい現実でした。そんな中、日本人街に一つの野球チームが生まれます。チームの名は“朝日”。フェアプレイで戦う彼らの姿はやがて人々に勇気と希望を与えていくようになっていきます。

 物語の登場人物はカナダ・バンクーバーに移住した日系カナダ移民の二世の若者たち。カナダ人より安い賃金で働く日本人は多くのカナダ人にとっては自分たちの職を奪う者としてすんなりと受け入れられる存在ではなく、かつ日本人同士が何を話しているかがわからないので、余計に不気味な存在として見られてしまいます。でもそんな時に日本人とカナダ人の心のかけ橋になったのが野球チーム“朝日”です。
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体格や馬力が違うカナダ人チームに最初は全く歯が立たなかった“朝日”ですが、バント、盗塁、ヒットエンドランと小柄で機敏な動きが得意なところを生かし、ついには1点、1勝と勝利を手に入れていきます。カナダ人チームには決して思い付かなかったやり方で好プレイを繰り広げ、全力疾走で真っすぐ野球に打ち込む“朝日”の選手たちを日本人は言わずもがな、次第とカナダの人々も応援するようになります。

そんな“朝日”を引っ張るのはキャプテン、レジー笠原。目立ったリーダーシップがある訳ではないけれど、自然と輪の中心に立って皆をまとめるレジーを妻夫木聡さんが好演。もうこういう役をやらせた時の妻夫木さんの安定感は言うまでもありません。ちょっと頼りないけど、根が優しく皆から愛される長男キャラは妻夫木さんにピッタリです。
レジーがバントをして必死に1塁ベースに向かうシーンは海外の映画祭で観客が大爆笑していたそうですが、人が一生懸命な姿はどこか滑稽ですからね。それが実直であればあるほど、どこか笑みがこぼれるものです。そしてそんな笑顔が固まっていた両者の心を溶かしていきます。
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チームのメンバーは漁業をしながら病床の母を看病しているエースピッチャーのロイ永西を亀梨和也さん、レジーと同僚でセカンドを守るチームメーカーのケイ北本を勝地涼さん、所帯持ちで豆腐屋を営むキャッチャーのトム三宅を上地雄輔さん、ホテルで働く最年少サードのフランク野島を池松壮亮さんといった若手たちが演じています。レジーを始め“朝日”のメンバーは言ってしまえば市井の人々、ずば抜けた才能を持つヒーローがいる訳ではありません。でも彼らにはギリギリの日常の中で拠り所としての家族以外に仲間や好きなこと=野球がある。それはささやかなことかもしれませんがこの時代と境遇では何よりもの心の支えとなり、他者の心さえも捕えるようになります。

もっとわかりやすくお涙頂戴的に“朝日”の活躍をドラマティックに描くことも出来たかもしれませんが、本作では敢えてそうはせずに、時代に翻弄されることとなる人々の日常を丁寧に描きながら、野球を通して差別し合っていた者同士の心が通いあっていく様子を真摯に爽やかに描いていきます。
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 本作は史上最年少で米国アカデミー賞外国語映画部門日本代表作品に選出された「舟を編む」のメガホンをとり、女優・満島ひかりさんの旦那さんでもお馴染、石井裕也監督の最新作。監督もキャストもほぼ同年代のメンツで作られた本作は“朝日”のプレイに通じるチームワークの良さも感じられる1本となっています。是非、ご家族の皆さんでお楽しみください。

By.M
(C)2014「バンクーバーの朝日」製作委員会

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