ついに本年度のアカデミー賞受賞式(日本時間2/23発表)が近付いてきました。毎年この時期になると関係者のごとくドキドキしてしまう女住人Mです。今回は年末に滑り込みで公開され、只今全米で大大ヒット中、そして本年度のアカデミー賞作品賞ほか6部門でノミネートされている2/21公開の『アメリカン・スナイパー』をご紹介します。
本作はネイビー・シールズのスナイパー(狙撃手)として類まれなる技術を持ち、2003年のイラク戦争が始まってから4回にわたりイラクに遠征し、仲間たちの命を救ってきた実在の人物クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)の物語です。味方からは「伝説の狙撃手」=レジェンドとして英雄視される一方、イラク武装勢力からは「悪魔」と恐れられ彼の首には2万ドルもの懸賞金がかけられていました。戦地という壮絶な環境の中、仲間をひいては家族を、国家を守りたいという強い思いから引き金を引き、敵の命を奪っていくクリスですが、彼の心はどんどん戦争に囚われていきます。
そんな伝説のスナイパーの衝撃な真実を描く本作の監督は昨年も「ジャージー・ボーイズ」という、華麗なる傑作を世に送り出しているクリント・イーストウッド、84歳!前作から一転、骨太な作品を作り上げている上に毎年、毎年ハイレベルでハズレがない作品を量産し続けるイーストウッド監督、まさに彼もレジェンドの名にふさわしい仕事っぷりです。
そして本作は映画化権を持っていたブラッドリー・クーパー(「世界にひとつのプレイブック」、「ハングオーバー!」シリーズほか)が主演のクリス・カイルを演じ、プロデューサーも兼ね、ブラッドリー自身も本作で3度目のアカデミー賞ノミネート俳優にもなりました。因みに次回、ブラッドリーは念願の監督デビューを果たすので、映画界のレジェンド・イーストウッドの監督としてのテクニックを学ぶべく、彼に監督を依頼したのかもしれません。題材自体がハードな内容である上にブラッドリー自身の気持ちもガッツリ入った作品なだけあって、彼の本作に対する演技アプローチもただならぬものを感じます。
本作で描かれるのはクリス・カイルの過酷な日常。それは戦地にいる時だけではありません。もちろん、戦地では常に極限的な緊張感を伴います。死と常に背中合わせである彼は使命を全うするために否応がなしに自身を追いこんでいきます。そして無事に任務を終え、一時帰国し、日常に引き戻されたとしても、普通の日常という環境までも暴力的に感じてしまうようになります。つい何日前までは戦地のど真ん中で銃声を聞き、人が死に、敵に命を狙われていたカイルは日常に戻っても、精神は戦地にいる時のままなのです。生活音が戦地の音に聞こえ、後ろを走る車ですら敵からの威嚇と思い込み、戦争のトラウマが彼を襲います。“祖国を守るために160人もの敵を射殺した伝説的スナイパー”という一面だけを切り取るとアメリカ万歳映画と思われがちでしょうが、イーストウッド監督やブラッドリー・クーパーらがここで描こうとしたのは、まぎれもなく戦争がもたらす“犠牲”なのです。
本作の中で、クリス・カイルの命を狙う敵サイドのスナイパーが登場します。確かに彼は悪ですが、彼なりの正義の元で守るべきもののためにクリスの命を狙うという点でかなり乱暴に言えばこの二人はどちらも同じであるといえます。元をたどれば、自分の信じる神や愛する国家や家族を守りたいと願っているという面では同じであるにも関わらず、それが戦争という手段をとるとそこには悲劇しかなく、あるとすれば“犠牲”しかありません。
戦いからは何も生まれない・・・・言葉だけでは到底その絶望感は表現出来ないのですが、とにかく本作を観た後、そしてTVからのニュースを耳にする度に、どうしようもない気持ちだけが襲ってくるのです。
クリス・カイルは戦争に赴くことで心に傷を負い、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しました。従軍経験者の多くが精神的に傷つき、戦地から戻ってもなお心を蝕まれ、普通の生活が送れなくなってしまうと言われています。そんな自身の経験を経て、クリス・カイルはある行動に出るのですが、それがまたもう1つの悲劇を生むことになります。
戦争が終わってもなお、戦いは“犠牲”を生んでしまうのです・・・。
既にイーストウッド監督のキャリア最大のヒット作「グラン・トリノ」の興行記録をぶっちぎりで更新し、イーストウッド監督最高傑作にして史上最大のヒット作となっている本作はスクリーンで見ない訳にはいきません!
『アメリカン・スナイパー』は2/21(土)からシネマイクスピアリで公開です。
By.M
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