梅雨は苦手ですが、紫陽花の季節なのはちょっと嬉しいですね。こんにちは、女住人Mです。今回ご紹介する作品の舞台は紫陽花が似合う街としても有名です。6/13(土)から公開中の『海街diary』です。
いろんなタイプやジャンルの映画がある中で「映画の中で出会ったあの子は、あの人は、あの家族は元気でやっているかな」と思わせてくれる映画が私は大好きです。例えば「6才のボクが、大人になるまで」。6才のメイソン君が大学生になって独り立ちするまでを丁寧に12年間に渡って撮り続けられた作品で、観ている間も親戚のおばちゃんフィーリングでメイソン君を見守り、映画が観終わっても「あ~メイソンはちゃんと大学を楽しんでいるかな」なんてことをふとした瞬間に思い出し、実際にはありもしない彼の生活に想いを馳せそうになります。フィクションの世界の登場人物にも関わらず、映画の中という限られた時間と空間で出会ったにも関わらず、親密な世界を共有した気分にさせてくれる映画は観終わった後も不思議な感覚で私の記憶に留まります。そして『海街Diary』もまさにそんな映画です。
舞台は鎌倉。広くて古い家で暮らす三姉妹・幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)の元に15年前に家族を捨てた父の訃報が届きます。葬儀に参列した三姉妹はそこで腹違いの妹すず(広瀬すず)と出会い、一人ぼっちになった彼女に長女の幸は鎌倉で自分たちと一緒に住もうと提案します。こうして四姉妹の生活がスタートします。
父親が家族を捨て、家を出て行き、その後母親も再婚して家を去る。両親の代わりに今は亡き祖母に育てられた三姉妹。きっと今のような生活になるまでは何かしらあったんだろうな~、と想像させられながらも今は当たり前の日常がそこにあります。腹違いの妹すずの登場に小さな波紋が起きそうにはなりますが、三姉妹は彼女を決して拒むことはせず、受け入れようとします。それは彼女たちも突然、親がいなくなった経験をしているからでしょうか・・・。
その後、大きな事件が起きる訳ではありません。でも大きな事件が起きなくても生きることは大変だし、取るに足りないことが楽しかったり、ささやかなことが人を幸せにするものです。毎年作っている梅酒が美味しく作れたり、お父さんの想い出のしらすトーストと久しぶりに出会えたり、お風呂場に変な虫が出てきてそれを姉妹で騒ぎながら退治したり・・。日常の風景が心にスーっと沁み込んでいくそんな瞬間がこの映画にはたくさん散りばめられていて、それが積み重なり、とても穏やかな気持ちに包まれます。
(物語の中で"生"の部分を表現する佳乃を演じるは長澤まさみさん。まさみ力も随所に輝やいてますYo!)
一方で日常は突如として牙を剥く時もあるもの。祖母の七回忌に突然現れた母(大竹しのぶ)と喧嘩になる幸。「もとはと言えばお父さんが女を作って出て行ったからじゃない」と母が口走ったことで「奥さんをいる人を好きになるなんて私のお母さんよくないよね」と幸に言うすず。そんな幸も実は不倫をしていて、すずの一言にドキっとさせられる。家族だからこそ言えない秘めた思いを抱きつつも、姉妹たちは日々の生活の中で折り合いを見付け、それぞれ居場所を見つけていきます。
いろいろあっても前を向く、変えられない過去と向き合って、悲しい記憶ももう一度とらえ直していく、そして、自分がここにいていいことを肯定していく強さを身に付けていく。描かれるのは1年という短い月日ながらも姉妹たちのそんな心の変化が丁寧に描かれているのでどんどん彼女たちの存在が観客の心の中でも親密なものに変化していく。映画のラストシーン以降の彼女たちの今が心の中でどんどん大きくなっていく。それは映画が終わってからも続く幸せなひと時なのです。
四姉妹を演じた女優陣も個性に溢れ、観た人それぞれに誰かの人生が自分の近くに感じたり、「姉妹ってこう、こう!」と親近感を抱く方も多いと思います。個人的には夏帆ちゃんが演じた自由奔放ながらも実は一番客観的に家族や恋人を見守る三女・千佳ちゃんに心を奪われたのですが、やはりここは芸名と同じすずを演じた広瀬すずちゃんの存在でしょう!頑張って三姉妹に馴染もうとする様、でも実は家の外の方が心から笑えたり、ご飯がモリモリ食べられたりする様など、胸に秘めたすずの迷いや遠慮、不安を広瀬すずちゃんが見事に演じています。この後7/11(土)公開の「バケモノの子」でも声優を務めたすずちゃんはここでまた素晴らしい声優としてのスキルも発揮していますので、彼女は今後も要注目ですね。
監督は「誰も知らない」や「歩いても、歩いても」「そして父になる」の是枝裕和監督という訳でもう間違いないでしょう。
雨降りの鬱陶しい季節ですが本作をご覧になればきっとさわやかな気持ちで映画館を出られると思いますよ。
By.M
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