『クワイエット・プレイス』
2016年の『ドント・ブリーズ』、2017年の『ゲット・アウト』、『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』とホラー映画の名作が続々と誕生している昨今、その系譜を引き継ぐ作品が誕生しました。今回は9/28(金)公開『クワイエット・プレイス』をご紹介します。
音に反応して人間を襲う“何か”によって荒廃してしまった世界。リー(ジョン・クラシンスキー)とエヴリン(エミリー・ブラント)の夫婦は子供たちと決して音を立てないルールの元、生き延びてきたのですがエヴリンは新しい命を宿します。“静寂”が生き残る術である彼らは果たして生き長らえることが出来るのか・・・
他に生存者がいるか全くわからない状況の中、手話を用い、裸足で歩くなどし、細心の注意を図り生活をしているこの家族。“決して音を立ててはいけない”という点では『ドント・ブリーズ』と似た設定ですが、あちらはとんでもないオヤジが暴走し、あの家からさえ逃げおおすことさえ出来れば・・というシチュエーションでしたが、今回は音に反応する敵が世界中に現れ、ほぼ瀕死となった世界が舞台。永遠に続くかもしれないこの状況をサバイブすること=生き長らえること、というさらにハードな状況。気を抜く隙なんてあったもんじゃない、という訳で、観ているこっちも否が応でも息をひそめることになり、劇中の世界とのシンクロ度も120%です!
世界のどこかに生きている人がいて、一緒に戦えないか?助けはないか?と一縷の望みをかけているのですが、幼い子もいる中で音を発せずの生活は至難の技。でも食糧も調達せねばで、自らで危険度が増す外に出なければならないし、この状況の終わりが見えない、いや終わるかもわからないだけに日々絶望との背中合わせ。万が一の場合は生き残った者だけで生き続けなければならない、という現実から夫婦は時に厳しく、必死に子どもたちにサバイバルスキルを伝授するのです。それは「自分たちが犠牲になってもせめて子供たちだけでも・・・」という親の願いですがそんな重圧を子供たちが受け止められる訳もなく、弟のマーカスなんかは怖気づくばかりなのです。
一方で上のお姉ちゃんリーガンは聡明でしっかり者。ただ聴覚に障害があることで自信がなく、また父親のリーから愛されていないんじゃないか、と思い込んでいるから、父親の良かれと思っての言動が裏目に出ることもあり、観ているこちらもヤキモキするんです。「お姉ちゃん、あなたは愛されているんだよ、大丈夫だよ。こういう時だからこそ、家族が1つにならなきゃだよ!」と。
映画の入り口は得体の知れない何かが襲ってくるサバイバル・ホラーなのですが、物語が進むにつれ、この映画が本当に描こうとしていることは別にある、と我々観客は気付くこととなるのです。そして敵との死闘の中でお父さんの本当の思いを知ることになる終盤、私の頬には涙が伝っていました・・・・からの切れ味最高のフィナーレに全米大ヒットにガッテン!という訳です。
この映画の大ヒットの所以はアイディアと脚本力にあると思いますが、それを体現した役者たちが素晴らしかったことも要因の1つでしょう。愛情深くも逞しい母エヴリンを演じたエミリー・ブラントは来年、『メリー・ポピンズ リターンズ』で主演も決まった人気女優。そして彼女の実生活の旦那さんでもあるジョン・クラシンスキーが主演・監督・脚本・製作総指揮を兼任し、これまでの“売れっ子エミリーの旦那さん”というポジションから一気に夫婦そろって売れっ子のおしどりハリウッドスターとなりました。また『ワンダー 君は太陽』でも注目されたノア・ジュプくんが全人類の弟的存在のマーカスを熱演。将来、「スパイダーマン」のトム・ホランドくんみたいになってくれないかなぁ、と私は密かに期待しています。
そして最後に難しい役どころを理知的に演じ切ったお姉ちゃんのリーガン役のミリセント・シモンズちゃん。彼女自身も聴覚障害を持ち、今年『ワンダー・ストラック』の演技で注目された素晴らしい女優さんです。特にこの姉弟、二人の演技力あってこそのこの映画の完成度、と言っても過言ではないかと・・・
今後の活躍も楽しみですね。
By.M
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