ウラシネマイクスピアリブログ

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『こんにちは、母さん』

 映画は誰とご覧になりますか?私はだいたい一人で観ます。でも誰かを誘ってみようかなと思う映画ももちろんあります。今回は家族を誘いたくなる9/1(金)公開『こんにちは、母さん』をご紹介いたします。

 本作は9/13に92歳になられた山田洋次監督、90本目の新作。現代の下町を舞台に母親と息子、彼らを取り巻く人々の人間模様を描きます。

 神崎昭夫(大泉洋)は上に下にと気を遣う大企業の人事部長。家庭内では離婚問題が勃発している上に大学生になった娘(永野芽郁)との関係も微妙で色々お疲れ気味。そんな時に久しぶりに実家の母(吉永小百合)を訪ねてみると、母は見違えるように華やかで生き生きと生活をしていた。なんと恋もしているみたい!自分の居場所をすっかり見失ってしまった昭夫は動揺を隠しきれません・・・

 いつも若々しい吉永小百合さん、これがなんと人生初のおばあちゃん役だそう。いくら綺麗だからと言って、今まで誰もおばあちゃん役をオファーしていないなんて、どんだけ吉永さんに夢を背負わせ続けるんだー!と思わなくもないですが、実際キレイだもんなぁ。でも吉永さんのおばあちゃん役はとにかく可愛げに溢れていて、これまで以上にスクリーンで輝いて見えるのは私だけじゃないと思います。亡くなった旦那さんの足袋屋を受け継いだ上でボランティア活動にも精を出す福江さんを吉永さんがとってもナチュラルに演じます。

でもそんな母親が心配でしょうがないのは息子の昭夫。母親が牧師さん(寺尾聡)に恋心を抱いていると知って、みっともないと思っちゃう。でもそれは「こうあるべき」という昭夫の中の固定概念だったり、くすぶっている自分と比べて、母親の方が人生を謳歌しているのが単純に羨ましく見えたのか?元気な母親を見ても、不運続きな昭夫は素直に喜べません。そしてトホホな昭夫を大泉洋が演じるのでやるせない感は倍増です。

 次々と難題が降りかかってしまう昭夫ですが、母親の元に集うご近所さん、ボランティア仲間の皆さんとのなんてことないおしゃべり、その風通しの良い距離感にいつしか心もほぐれ、自分のこれまでを顧みて、少しずつ奮起していくのでした・・・

「明日からもいっちょ頑張りますか」と背中を軽くポンと押してくれるような温かい映画なのですが、福江がボランティア活動先で知り合うホームレス(田中泯)を描くパートでは「下町人情物語だけにこの映画を終わらせないぞ」という気概も感じられ、「さすが生涯現役!」な山田監督のパワーにも胸が熱くなるのでした。

 ものはたくさん溢れ、新しいビル、街はどんどん出来上がっている昨今ですが、それと引き換えになくしたもの、失いつつあるものはたくさんあります。この映画で描かれることはもはやファンタジーなのかもしれませんが、決してなくしてはならないものや感情がたくさん散りばめられていると思います。山田洋次監督からのメッセージ、ぜひともお受け取りください!

By.M