ウラシネマイクスピアリブログ

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『風のマジム』

 去年のブームと言えば「虎に翼」。どっぷりハマった方も多かったと思います。寅ちゃんを演じた伊藤沙莉さんの主演映画がただいま上映中、今回ご紹介する作品は9/12(金)公開『風のマジム』です。

 まじむ(伊藤沙莉)は那覇で祖母(高畑淳子)母(富田靖子)と暮らしながら契約社員として働いている。ある日祖母とともに通うバーでラム酒に魅了されその原材料がサトウキビと知り、折しも社内のベンチャーコンクールが開催されていたことを機に南大東島産のサトウキビからラム酒を作る企画を思いつく。それはやがて周りを巻き込む大きなプロジェクトへと発展していくことに・・・

 本作は原田マハさんの同名小説を原作とし、実話を元にした一人の女性の奮闘記。“虎つば”とちょっと似通った役柄に思えますがまじむは特に野望や夢など持たずにぼんやりと毎日を過ごしていた女性でした。

 お酒がいける口だったまじむはお婆と馴染のバーで飲んだりおしゃべりすることが大好き。その時にマスター(染谷将太)にお薦めされたラム酒にハマり、沖縄発信の国産ラム酒を作ってみたい!と自分がやりたいことと出会うんです。やっと見つけたまじむの夢ですが、一番の理解者であるお婆が難色を示します。お婆はゆし豆腐を作る豆腐屋を営んでいます。人の体に入る“食”を扱う仕事の大変さを知っているから、そして自分の仕事にプライドがあるからこその真っ当な態度です。演じる高畑淳子さんの表情、佇まい、そのお婆っぷりがほんと素晴らしく、まじむが諭される時はこっちまで背筋が伸び、優しくされると「お婆―!」とすがりたくなる思いです。

 また、まじむのラム酒作りの大きなポイントとなる伝説の醸造家を滝藤賢一さんが演じまたどハマリキャスティング。“ずっとお酒を作ってます。実直なまでに・・・”という風貌にしか見えなくて出オチ感さえ漂ってます・笑 伊藤沙莉さんと滝藤さんはそれこそ“虎つば”共演者なので、息の合い方もピッタリですしね。

 一難去ってまた一難、これまで純沖縄産のラム酒が作られてこなかったのにはそれなりの理由があり、契約社員と正社員、若者と高齢者、島と本土、都心と地方といった対立する価値観の違いもあったりと、まじむのめざす道のりは当然のように楽なものではありませんが、彼女のひたむきさは周りをどんどん巻き込んでいくのでした。

 さて主人公のまじむという一風変わった名前。これはお婆が名付けた“真心”を意味する沖縄の方言。まじむの周囲の人、出会っていく人、まじむ自身の“真心”が影響しあって素敵な物語が紡がれます。ずっと暑かったこの夏にちょっとお疲れ気味な方にこそおすすめしたい優しい物語、それが『風のマジム』です。この映画に難があるとするならば、マジムのラム酒とお婆が作ったゆし豆腐をすぐにでも食したくなることかしらね~笑

By.M