『ビール・ストリートの恋人たち』
今回は先日行われたアカデミー賞で3部門ノミネート、うち助演女優賞(レジーナ・キング)を受賞した、『ムーンライト』(第89回アカデミー賞作品賞受賞)のバリー・ジェンキンス監督最新作2/22(金)公開の『ビール・ストリートの恋人たち』をご紹介いたします。
舞台は1970年代ニューヨーク。幼馴染だったティッシュ(キキ・レイン)とファニー(ステファン・ジェームス)。運命に導かれるように惹かれあい結ばれ、子供を授かるのですがファニーは白人警官の恨みを買い、婦女暴行の濡れ衣を着せられ留置所に入れられてしまいます。ティッシュとその家族はファニーを助けようと奔走するのですが、様々な困難が彼らの前に立ちはだかります。
『ムーンライト』同様、差別問題がテーマにもなっている本作を「重たいかな?社会派っぽい?」と敬遠する方もいるかもしれませんが、私がこの映画を観終わった時に感じたのは「ロマンチック!ロマンチック過ぎる!」、それは『ムーンライト』を観た時ととてもよく似ていました。
本作は一言で言えば過酷な運命に翻弄される男女の物語です。70年代のアメリカでは黒人差別はどこにでもあり日常的に行われ、言いがかりで投獄されたり、命を落とす者もいた、そんな時代です。お腹に愛する人の命を宿し、身重ながらもティッシュは必死に愛する人の無実を晴らすために、弁護士を雇うために働き続けます。でもこの映画ではそんな悲痛な状況を力ずくで描くようなことはしません。
物語は二人が穏やかに愛を育んでいく日常の風景を挟みこんで描いていきます。そのシーンがどれもこれも本当にロマンティックの極みでうっとりなのでその後、彼らが理不尽な状況に置かれることを一瞬、忘れさせられるぐらいなんです。
特にファニーの部屋にティッシュが初めて訪れるシーン。ファニーは緊張気味な彼女を、そして自分の気持ちをほぐすかのようにレコードをかけるのです。もう何なんだ!という程の絶妙タイミング、選曲、全てにおいてロマンティック総動員なとろける場面。『ムーンライト』でもそうでしたがジェンキンス監督のロマンチック演出は「私(俺)をここで殺す気か?」なレベルです。
そして彼らは、どんな試練が立ちはだかろうとも二人に通い合う“愛”を信じ、彼らの家族、友人たちの“愛”を支えに立ち向かいます。「愛し合う人たちが好きだから」、「友達だから」そんな理由で彼らを助ける、まさに良心を体現する人たちが登場し、二人を仄かに照らし幸福に導く様は本当に温かい気持ちにもなります。世界はこんなささやかな思いやりで幸福に包まれるのだと・・・。
だからこそ、愛に満ちた二人の物語を観続ける観客は「どうか幸せになって」と祈り続けるし、彼らが直面する現実のやるせなさをより痛感していきます。そしてこんな差別が存在する、というのがこの時代で終わったことではなく、現在もなお続くことである、というのを私たちは知っています。
偏見、暴力、憎しみからは何も生まれない、生まれるのは悲劇だけ。だからこの世界には“愛”の力が必要なんだ、そんな監督のメッセージを私はシカと受け取りました。本作は純度100%、いや1000%の愛の物語です。
By.M
(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.