ウラシネマイクスピアリブログ

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『クーリエ:最高機密の運び屋』

 まもなく世界一有名なスパイ映画の新作が公開されますが、今週は実在したスパイが主人公の映画、9/23(木・祝)公開『クーリエ:最高機密の運び屋』をご紹介いたします。

舞台はアメリカとソ連の核兵器開発が激化していた1960年代初頭。第三次世界大戦がいつ勃発してもおかしくない、そんな状況で事態解決を急ぐCIA(アメリカ中央情報局)とMI6(英国秘密情報部)はある1人の英国人に望みを託します。彼の名前はグレヴィル・ウィン(ベネディクト・カンバーバッチ)、イギリスからモスクワに渡りソ連の機密情報を持ち帰る“スパイ任務”にあたることとなりますが、彼は一流のスパイではなく、普通のどこにでもいるようなサラリーマンだったのです・・・という嘘のような本当の話。タイトルの“Courier(クーリエ)”は運び屋、密使を意味します。

兎にも角にもスパイが普通のリーマンだった、というのが何よりものポイント!当時の米ソは大量の核兵器を製造していましたが、それを相手国の首都に撃ち込むだけの長距離ミサイルの開発までには至っていませんでした。そんな時、ソ連がキューバに核ミサイルを持ち込もうとしていることが判明(いわゆる“キューバ危機”)。

こうしたソ連の軍事情報をアメリカに流していたのがGRU(ソ連軍参謀本部情報総局)のオレグ・ペンコフスキー大佐(メラーブ・ニニッゼ)でした。ただ、ソ連にいたCIAのスパイが処刑され情報が滞ったため、怪しまれずソ連と西側を行き来出来る存在として白羽の矢が立ったのが東欧諸国に工業製品を卸ろしていたグレヴィル・ウィンだったのです。

当初CIAやMI6は「サラリーマンの君に危険な任務を頼む訳ないよー、ない、ない。」という感じでウィンをソ連に送りペンコフスキーと接触させ西側に機密情報を運ばせていたのですが、これが核戦争に関わることと知ったウィンは恐怖と怒りでこの仕事の継続を断固拒否します。そりゃそうです、一介のサラリーマンなのにこんな危険な任務を遂行する義理もありません。万が一見つかればそれは死を意味します。CIAとMI6は半ば強制的にウィンをモスクワに向かわせますが本当の意味で彼を説得したのはペンコフスキー、その人でした。彼は祖国を裏切ることで祖国に本当の希望を見い出したかったのです・・・

この映画には“007”シリーズのように主人公がエレガンスなスーツを着こなして登場したり、ガジェットを駆使した武器が登場したり、豪快なアクションシーンがある訳ではありません。あるのは命がけの情報交換、敵との心理攻防戦、バレたら最後といったスリリングな緊張感です。一見地味に思われるでしょうが、現実がどんどん悪い方に進んでいくにつれ観客は息もつけぬほど、ウィンとペンコフスキーのやり取りに見入っていきます。

そして同じ任務、危険を背負った二人には次第と強い友情が芽生え始めます。それは二人が絶対絶命な局面に陥った時、何よりも強固な絆となって二人を支えることとなります。何の確証もない中で二人は最後まで互いを信じ続けます。そういったストーリーが展開される物語の後半は涙なしでは観られません・・・

そんな風にこの映画が私たちの心を鷲掴みにしたのは世界の危機を救ったのがいわゆるスーパーヒーローでなく、普通のサラリーマンだったこと、ただ一番に家族を愛した男たちの手によって保たれたという意外な事実があったということですが(しかも実話)、ウィンとペンコフスキーを演じた二人の役者の演技力のなせる技というところも大きかったと思います。それは私が個人的にウィンを演じたバッチさんことベネディクト・カンバーバッチの大ファンである、ということを差し引いても、この映画をご覧になった方には納得して頂けるポイントだと思います。本当にバッチさんが凄いんです。

この映画はきっと観る前のあなたの予想を越えていきますYO。

By.M