ウラシネマイクスピアリブログ

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『大統領のケーキ』

 子どもの目線で社会が語られる映画の名作がまた1つ誕生しました。今回ご紹介する作品は7/10(金)公開『大統領のケーキ』です。

 舞台は1990年代、フセイン独裁政権下のイラク。大統領の誕生日が直前に迫り、イラク中の学校で誕生日を祝う準備が行われていた。祖母と二人暮らしの9歳のラミア(バニーン・アハマド・ナーイフ)はフセイン大統領の誕生日のお祝い係を決めるくじで、ケーキを準備する係に選ばれてしまう。祖母(ワヒーダ・サーベト)に伴われ友だちでもある雄鶏のヒンディと町に出るが、その目的は材料を揃えるための買い物ではなく、ラミアを育てられないと覚悟した祖母が彼女を養子に出そうとしていた。思わず逃げ出したラミアはケーキの材料を集められれば、なんとかなると信じ、ヒンディを連れ同級生のサイード(サッジャード・モハンマド・カーセム)と協力し合い、町中を奔走する。

 監督自身が経験した実話をモチーフにした本作は第78回カンヌ国際映画祭 監督週間観客賞、カメラ・ドール(新人監督賞)W受賞、イラク映画として初めてアカデミー賞国際長編映画賞のショートリストに選出される快挙を遂げた作品です。

 ポスターのビジュアルだけ見ると雄鶏を抱えたラミアの姿はとても愛らしいけれど、彼女の身の回りの現実はかなりハードです。90年代と言えばイラクによるクウェート侵攻があり、国際安保理の制裁を受けたイラクの国民たちは物資不足に苦しんでいる頃。ラミアに両親がおらず、祖母に育てられているのも推して知るべし・・・アメリカ軍の偵察機が上空を飛び、庶民は今日の生活もままならないのに大統領のためにケーキを作らねばならい・・。教師はそんな境遇の子どもたちを庇うでもなく、むしろラミアのその日のランチだったりんごを横取りするぐらい浅ましいんです。

 そんな中でおばあちゃんと一緒に暮らしたいと願うラミアはケーキ作りの材料集めに必死です。優しい大人がいない訳じゃないけれど、全てにおいて余裕がない大人たちは子供相手でも容赦なく騙すし、酷い大人の餌食にもなりそうになる。この映画を観ていてとにかく思うのはいつだって戦時の害を一番被るのは立場の弱い者、特に子供だということ。

TVの報道でもそういった光景は嫌という程見るのに、戦争を始める大人は安全地帯から好き勝手やりたい放題で本当うんざり。 ラミアの学校でも「魂をフセインに捧げる」と唱和させ、まるで小国民を育成させるかのようですが、日本が戦時下だった時に普通にあった風景だったと思うと今みたいなキナ臭い空気が漂う時代だとこの映画がよその国の過去の出来事、なんて悠長には言ってられない、とも思います。

 ラミアは戦争や独裁政権下の被害者ではあるのですが、無力なだけではなく、子供ながらの逞しさでもって、サイードと共に大人と対等に渡り合おうとする姿は子供の生命力を感じます。でもその利発さやひたむきさはもっと平和な日常において発揮させてあげたい。昨今の大人は子供への義務を怠りすぎてやいませんか?

 映画はエンターテイメントですが世界を知るツールの1つでもあります。ラミアの冒険譚を通して見える世界、皆さんにはどう感じられるでしょうか?

By.M