ウラシネマイクスピアリブログ

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『TOVE/トーベ』

 日本中、知らない人はいない“ムーミン”は人気のキャラクターですがそれを生み出したトーベ・ヤンソン、その人が一体どんな女性だったかご存知の方はそう多くはないかもしれません。私もそんな1人でしたが彼女のことを知ると少なからずの驚きと共に大いに納得!となると思います。今回は“ムーミン”の原作者、トーベ・ヤンソンの半生を描いた映画、10/1(金)公開『TOVE/トーベ』をご紹介いたします。

トーベ(アルマ・ポウスティ)は第一次世界大戦が勃発した1914年、彫刻家の父ヴィクトルと挿絵画家の母シグネの間にフィンランド・ヘルシンキで誕生。両親はともにフィンランド芸術史に名を残すアーティスト、その影響でトーベも小さい頃から芸術家を志します。最初は挿絵画家としてデビューしますが画家として成功することが目標だったトーベ、スランプに陥った時に描き始めたのが「ムーミントロール」の物語でした。

この映画を観るとトーベは独創的で自由を重んじる女性であることがとてもよくわかります。トーベが生きていた時代で彼女の生き方は特殊と映るかもしれません。そしてその根幹にあるのが彫刻家の父の存在でした。厳格かつ自分の価値観を押し付ける父の威厳の前に彼女は反発するかのように自分のやりたいこと、思うことを優先します。

パーティで出会った妻のいる男性アトス・ヴィルタネン(シャンティ・ローニー)と恋に落ち、その一方で市長夫人にして舞台演出家のヴィヴィカ・パンドラー(コリスタ・コソネン)とも恋に落ちる。好きと思ったら一直線!アトスに「私の男はあなただけ、女はヴィヴィカだけ」と言ってのけるトーベの潔さよ。

そしてそんな風に彼女の人生に深く関わっていた人たちはムーミンの物語に意図的に登場します。彼女のよき理解者だったアトスは古い帽子をいつも着用し、その姿はスナフキンそのもの。「たのしいムーミン一家」に登場し、一心同体のような存在トフスランとビフスランはトーベとヴィアンカ、そのネーミングはそれぞれの名前の頭文字を使ったネーミングです。

当時、フィンランドでは同性愛は精神疾患と指定されるだけでなく犯罪だったため、彼女たちは二人しかわからない暗号のような言葉でメッセージを交わし、それがムーミンの物語の中でも反映されています。そんな風に自身を投影させた物語だからこそ、ムーミンに出てくるキャラクターも物語もオリジナリティに溢れ魅力的なのかも、と思えます。

 ムーミンの物語はフィンランドで人気になっただけでなく英訳され当時世界最大の発行数だったイギリスの夕刊に連載されたことで世界中の人気コンテンツに発展していき、トーベは児童文学作家としても世界中で知られる存在になるのですがそれでも彼女はあくまでも大衆に受け入れられるのではなく、画家として成功したいという願いを捨てません。そこにはやっぱり父への強い反発、裏を返せば憧れ、まさに愛憎があったんだなぁ、と思わされます。でもそんな感情の束縛からも解放されるようになるのは愛する人との出会いなのでした・・・

劇中、ムーミンほか人気キャラクターも登場し、ファンの皆さんに喜んでもらえる映画になっているのはもちろん、自由と生きる歓びを追い求めて生きたトーベの姿にこの映画でもっとムーミンの世界が大好きに、そして近くに感じられると思います。

By.M