『ラーゲリより愛を込めて』
冬休みの大作映画が公開される次期になりました。今回は邦画でおススメな1本、12/9(金)公開『ラーゲリより愛を込めて』をご紹介いたします。
舞台は第二次世界大戦後の1945年、シベリアの収容所(ラーゲリ)に抑留された日本人捕虜たちは零下40℃にもなる過酷な環境の中、わずかな食糧のみを与えられ重労働を強いられていた。そんな中、山本幡男(二宮和也)は日本へ必ず帰ると信じて周囲の人々をも励まし続けていた・・・・本作は辺見じゅんのノンフィクション小説「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を瀬々敬久監督(『糸』や『護られなかった者たちへ』ほか)が映像化した作品です。
戦後、労働力としてシベリアなどへ連行された日本人捕虜は約60万人とも言われ、帰国も叶わず約7万人がその地で命を落としたとも言われています。その生活は筆舌に尽くしがたく、人権無視な環境は言わずもがな、いつ帰国が叶うか全く見通しがつかず、家族も無事であるかがわからないことへの不安や焦りを抱え、また元軍の階級による理不尽な上下関係にも耐えねばならず、精神的に追い詰められる環境は人間からいとも簡単に尊厳を奪っていきます。そんな状況下においても決して最後まで希望を捨てなかったのが山本幡男、その人でした。
ロシア語が出来たことから通訳も兼ねていた彼はロシア軍との間に入り(それが危険な行為になろうとも)収容所での生活改善を要求したり、ふさぎ込む者がいればその人に寄り添ったりと、心身共にギリギリの状況でも周囲への思いやりを忘れずに「俺たちは絶対帰国出来る。日本に帰るんだ」と励ます幡男さんの姿がそこにはありました。
それでもそんな風に踏ん張っていたのは誰よりも“帰国(ダモイ)”を願い、その望みを諦められなかったのが幡男さんだったからだと思えます。周囲を励ます言葉の一つ一つはきっと自身に向けられていた言葉だったんだと・・。生きるか死ぬかの状況下で他人を疑ったり、自分のことだけ考えるのに必死だった収容所の面々でしたが、幡男さんの存在が一縷の望みを芽生えさせ、彼らには強い友情が育まれるようになります。その後、人が生きることの無常さを我々は知ることになるのですが、強い絆で結ばれたからこその彼らの奇跡の行動には畏敬の念に堪えません。これが実話である、ということでさらに胸を打たれます。
幡男さんの行動は決して誰もが出来ることではないのは事実ですがそれを偉業としてではなく、あくまでも抑留された多くの人たちのうちの1人の行動として描かれることにも胸がいっぱいになります。
幡男さんを演じた二宮和也さんはインタビューでこう語っています。「その人が素晴らしかったと美辞麗句を連ねるだけでなく、僕らと同じ人間なのにこんなにも素晴らしいことが出来た人がいたんだ、自分も山本さんみたいになりたい、なれるんだ、と観客に思ってもらえるように描かないと・・・」と。人間はいつになっても愚かな行動を止めません。こんな時代だからこそ観ていただきたい1本だと思います。
追伸、
収容所で飼われていたクロを演じるワンコがまた名演過ぎる。
そして終盤のクロのくだりも実話と聞いてさらに目頭が・・・
By.M
(C)2022 映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会