『枯れ葉』
遠いフィンランドを舞台にしているけれどなぜか我々にもフィットするというか自分にピッタリくる、というような感覚を与えてくれる映画が只今大ヒット公開中。日本でもファンが多く、名前を声に出して言ってみたくなる監督の一人、アキ・カウリスマキ監督の最新作、1/12(金)公開『枯れ葉』をご紹介いたします。
舞台はフィンランドの首都ヘルシンキ。職を失くしたばかりのアンサ(アルマ・ポウスティ)と酒浸りのホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)はある夜、カラオケバーで出会い、ひょんなきっかけで二人の距離は縮まる。が、不運な偶然により彼らはなかなか前に進めない・・・
市井に生きる人々の眼差しをまっすぐに、時にとぼけたユーモアを交え描くことでお馴染みアキ・カウリスマキ監督。本作の主人公も様々な理由から職を失い、なんとか新しい職を得て、簡素な、と言えば聞こえはいいけれどいわゆるギリギリの生活を送る労働者です。
そんな二人が出会い、互いの名前を知らないまま惹かれ合います。惚れた腫れたと大騒ぎするような年頃でもない中年の男女が声をかけることも出来ず、目線も合わさずに、でも互いを意識しまくりなところはなんか微笑ましい。「二人がうまくいけばいいのになぁ」、なんて思っているのに悲運が重なってしまうところは人生のあるあるとも言えます。
我々の毎日も決して大それたことを望んでいる訳でもないのに、運命のイタズラのおかげでささやかな幸せがするっと通り抜けていくこと、ままありますから・・・不器用な二人のもどかしいやり取りの愛おしさが心をホッとさせます。
またカウリスマキ映画の登場人物は不愛想で無口と相場が決まっています。アンサもホラッパも基本クスリとも笑わない。カラオケバーにいるお客も店員も同じ、生演奏している二人の女性デュオ(彼女たちの音楽がまたクセになる!)も無表情で始終クール。でも感情がない訳ではなく、例えばホラッパが酒に溺れていると知ると、アンサはある理由からきっぱりNOを言い渡します。周囲に無関心なのではなく、思いや信念は胸に秘めている。そんな普段は感情を表に出さない彼らだから、意を決して前に進もうとする姿に、これまで決して見せることがなかったアンサの極上の“あれ”に心とろけてしまうのです。
アンサが家で聴くラジオからはウクライナ侵攻のニュースが流れ、アンサとホラッパが望むつつましい幸せですら危うさを抱えていることを感じさせるのですが、ちょっとしたユーモアと共に心にポっと明かりを灯してくれるこの映画は今だからこそ必要な束の間のやすらぎと譲れない決意の断片のような存在だと思います。
どのシーンも一枚絵のように決まるカウリスマキが切り取る世界観。彼も『PERFECT DAYS』のヴィム・ヴェンダース監督同様、小津安二郎監督の猛烈ファンであることも添えておきますワン!
By.M
(C)Sputnik Photo: Malla Hukkanen