『哀れなるものたち』
今年のアカデミー賞のノミネート作品が先日発表されました。只今、前哨戦レースで好調に爆走中、アカデミー賞も11部門ノミネートされている作品を今回はお届けいたします。1/26(金)公開『哀れなるものたち』です。
主人公は橋の上から投身自殺をした女性ベラ(エマ・ストーン)。天才外科医バクスター(ウィレム・デフォー)の手によって“彼女が身ごもっていた胎児”の脳を移植されたことで甦る。驚異的な速さで学習し成長していくベラ。彼女の観察者として側にいた医学生のマックス(ラミー・ユセフ)と婚約するも、「世界を自分の目で見たい」という衝動にかられたベラはプレイボーイとして知られる弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)と駆け落ちする・・・・
『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモス監督が再びエマ・ストーンとタッグを組み監督の元、エマ・ストーンが羽ばたきまくっている本作、体は大人、脳は新生児である女性の人生冒険譚という、なんとも仰天な攻めまくった設定です。
言葉を発すること、上手に食事をとることすら出来なかったベラが経験を積むことでどんどん知識を得て、能動的に成長していく様が積極的に、大胆に描かれ刺激的!そんな彼女を娘のように溺愛しているバクスターはその身を案じ、決して屋敷の外に連れだそうとはしません。成長するに従って自我に目覚め、自由を欲していくベラが「もっと世界を見たい!」と渇望するには時間がかからず、幼さと美しさが共存するベラに魅了されたダンカンが彼女を大陸横断の旅に誘うのです。
ダンカンはベラを自分色に染めようとはするのですが、強固な自由意志を持ち、自己開放型ベラは彼の思う通りに一切ならないところがまた現代的アプローチ。新しい価値観を持つ男を気取っていたダンカンが結局はTHE男社会を体現している存在でしかなく、どんどん開放されていくベラと相反してどこへもいけない残念な男性に行き着いてしまう・・・・。それをフェミニストなイメージの強いマーク・ラファロが演じるから絶妙です。
特権階級にいるような上の立場の男性が女性をレディに仕立て上げる『マイ・フェア・レディ』、『プリティ・ウーマン』的テーマが本作の下敷きではあるのですが、主人公が決して受け身なスタンスではなく、世間の常識、タブーなんて何のその、これ以上なく自由で強くて主体的で天晴!自我の誘いのままに奔放なふるまいで圧倒的存在だったベラが一方で読書を好み、知的好奇心に魅了されていく様も描かれていてまた素敵なんです。
本作では主演のほかにプロデューサーとしても名を連ねるエマ・ストーン。賞レースの主演女優賞の筆頭ですが映画を観たら納得しかない際立った存在感にノックアウトです。ベラの成長過程を所作や表情の一つ一つで表現し、見事にシームレスに演じていて驚愕。しかもこれ当然のように順撮り(脚本通りに撮影してくこと)じゃないらしい・・・どんな精神力でこんな演技が出来るんだ!アカデミー賞主演女優はエマ・ストーンで確定と私、踏んでます。
抜群に素敵な衣装の数々、ランティモス監督ならではのお伽話のようなルックス、その中に存在する辛辣な毒も映画のスパイスになっていて、観た人の心を大いに刺激するに違いありません。この世界、覗いてみる価値ありです!
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