『永い言い訳』

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 人はなぜ失くして初めてそれがどんなに大切だったかを気付くのでしょうか・・・。皆さん、こんにちは女住人Mです。今回は原作・脚本・監督とオリジナル作品を毎回手掛ける数少ない日本の映画監督の1人、「ゆれる」「夢売るふたり」の西川美和監督最新作10/14(金)公開『永い言い訳』です。
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 人気作家の津村啓こと本名・衣笠幸夫(本木雅弘)は突然のバス事故で妻・夏子(深津絵里)を失います。でもまさにその時、マンションに愛人(黒木華)を招き入れていた幸夫は妻の死に際し、涙を流すことも出来ない・・・。ある日、夏子の親友の夫で自分と同じようにバス事故で妻を失くした大宮(竹原ピストル)とその子供たちと出会った幸夫は、ふとした思い付きから幼い彼らの面倒をみることになります。
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別れの多くは突然やってくるもので、「ああすれば良かった・・・」という悔恨を伴うことが多いもの。本木さん扮する幸夫は妻を事故で失くし、途方にくれます。それは最愛の妻の突然の不在に耐えられなかったという訳でなく、その死に際し、何も感じられなかったから。妻は当たり前にいる存在だったから、それにいつも甘え、ぞんざいな態度を取り、別れ際も冷たくあたっていたのに、「あんなこと言うじゃなかった」という思いを抱く訳でもなく、一人になった悲しみを再び愛人に求めたり、お葬式でも作家である自分の体裁を気にしたり、ついにはネットでエゴサーチをして、世間でどう見られているかを気にするような男なのです。

自己愛には過剰に溢れているのに、自分には自信がなく、気にされるのは嫌だけど無視されるのはもっと嫌という、矛盾だらけでなんともバランスが悪い。そんな幸夫は妻を心から愛し、悲しみから抜け出せずにいる大宮と出会います。塾通いをしている息子と幼い娘の面倒を見るのもやっとだった大宮の代わりに、この二人の面倒をみることを幸夫は買って出る訳ですが、それも彼にとってはある種のプレイだったりする訳です。"悲しみの渦中にいるけれど、同じ悲しみを背負うこの家族を助け、それで何とか頑張る俺"的な・・・。もうどれだけ自己愛の塊なのか・・・。でも悲しいかな幸夫はどれだけ自分が残念な人間か全くわかっていないので、それを傍から見ると却って可笑しかったり、悲しさが増したり・・・・。
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 そんな器の小さい残念な男だった幸夫もまっすぐに生きている、誰かのために生きている、誰かの助けがないと生きていけない、そんな人々との出会いでちょっとずつこれまでに持ち得なかった感情を手にします。そしてあれだけ自分、自分だった幸夫が"結局、人は他者の中でしか存在しえない"ことに気付いていきます。自分は自分一人で変われると思っていたけれど、結局は周囲との関わりの中でしか変わることも出来ず、こんなにも他者によって生かされていたことを・・・。そんな当たり前のことに気付いた時に、その感情の変化を行動に表わすべき人はもうこの世にはいない・・・、そこで初めて幸夫は妻・夏子の死に直面するのです。
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 無くした代償は大きく、決して元通りにはなりません。幸夫はこれからもずっと夏子に対して永い言い訳をしながら生きていくのです。それでも「今度こそは・・・」という想いが彼をきっと変えていく。そう、人生はやり直すことができるのですから・・・。

By.M
(C)2016「永い言い訳」製作委員会 PG-12

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