ウラシネマイクスピアリブログ

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『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』

春休みはファミリー向け映画が多い時期、「大人に向けた映画を観たい!」、そんな方にオススメ!今回は3/30(金)公開『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』をご紹介します。

第二次世界大戦下、ナチス・ドイツの勢力が拡大し、イギリスにも侵略の脅威が迫っていた頃。時の首相となるチャーチルの就任からダンケルクの戦いまでの知られざる27日間を実話に基づいて描いたのが本作です。

 去年公開されたクリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』では、ドイツ軍によってダンケルクの海岸まで追い込まれた数十万の連合軍兵士を首相チャーチルの命令でイギリスに撤退させたダイナモ作戦、それが兵士目線で描かれていました。この映画では「じゃあ、その指示はどういう背景で出されたのか」が描かれます。防衛強化を怠ったとして辞任に追い込まれたチェンバレンに変わって首相になったチャーチルは就任早々、ドイツと和平条約を結ぶか?さらに犠牲者が出るというリスクを負ってでも闘うのか?という究極の決断に迫られます。

閣僚内ではドイツとの交渉を求める声が大多数の中、戦うことを選ぶチャーチルは孤立無援。豪快で弁が立ち、頑固で型破り、政界一の嫌われ者とも言われていたチャーチルですが、この映画の中では「自分は正しい判断が出来ているのか」と苦しみ、奥さんに励まされながら何とか踏ん張っている、そんな人間味溢れる一面が描かれます。周囲(民)の声を聞き、その上で自分の言葉で語り、自分の意思で国民を守ろうとする姿に「なぜ今、チャーチルなのか?」というこの映画が作られた意味を考えるのでした。

これまでのイメージとはちょっと違ったチャーミングな印象も与える本作でのチャーチル。
ご存知の通り、ゲイリー・オールドマンがチャーチルを演じ、本年度アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。若い時から幅広い役を演じ、演技派、実力派として知られている彼の集大成とも言えるこの役。でもゲイリー自身も演じるにあたって、ある条件がクリアにならなければこの映画のオファーを断ったと言っています。決して似ているとは言えない、むしろチャーチルと真逆な風貌である自分への特殊メイクを辻一弘さんに依頼することでした。そして辻さんは本作でアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を見事受賞!!そんな辻さんがオスカー像と一緒に緊急来日!その模様もお届けします!

10代の頃から特殊メイクを独学で学び、メイクアップの巨匠ディック・スミス氏と文通を通して師弟関係を築いた辻さん。96年に渡米しその後ハリウッドの一線でメイクアップアーティストとして活躍、過去に2度アカデミー賞にもノミネート。2012年以降は美術彫刻に専念し現代美術家として活躍中です。

思う所があって、映画の仕事をきっぱり止めていた辻さんですが、前述したよう、ゲイリーさんたっての依頼だったため、この仕事を受けたとか。また「映画の仕事はしないと決心していたのでここで考えを変えると人生を裏切る気分にもなったけれど、特殊メイクを始めたきっかけが恩師のディック・スミス氏の手がけたリンカーンのメイクをみたこと。(実在した人物を特殊メイクで再現する)こういった仕事が自分にはこれまでなかったけれど、仕事がしたかったゲイリーさんが持ってきてくれたオファーだったし、人生に1回あるかないかの話だと思ったので決めた。」と今回の仕事のいきさつを語ってくれました。

「この受賞で頂点に立ったというような感慨はありますか?」という質問には「“このメイクは新しい基準を作った”と周囲の人に言ってもらった。これまでのメイクは見た目にメイクとわかるものだったけれど今回はメイクとは見えないところが凄いと評価してもらったことが嬉しかった。」と語りました。

「映画の中でチャーチルが出ずっぱりですが、どうやって辻さんは仕事をしていたのか」については辻さんが映画界を一度去った理由は大勢の中で仕事をするのが苦手で撮影現場にいることが精神的に辛かったから。だから今回、自身は撮影現場ではメイクをしないことをオファーの条件にしていたそう。チャーチルの特殊メイク部分をデザインして、テストメイクして、フィルムテストをし、完成したものを二人のメイクアップアーティストにレクチャーし彼らが毎回、3時間15~30分ぐらいかけてメイクをしていた、と。既に辻さんの実力が認められていたからこその待遇だということも伺えます。そんな一線のプロである辻さんをしても過酷と言わせるハリウッドの現場。辻さんの心を癒してくれるのは飼っている猫ちゃんだそうです。

辻さんのように海外で実力を試してみたい!と思っている若い人へのアドバイスを求められると「自分でやりたいことは自分の心の中に正直に見い出すこと。他人の言うことは聞かない方が良いです。周りの人はアドバイスをくれるけれど、自分の心の中、精神的に繋がったものは自分しかわからないし、自分で決めてやっていかないで周りに聞いたり、流されてしまうと、後で後悔します。そしてやると決めたことは10年続けること。海外に一度は1カ月ぐらい住むこと。

自分はやりたいことをやっていたけれど、目標を切り替えるのに10年かかった。積み上げて来たことを切り捨てることが怖かったから。でも決心がつくと人生がどんどんいろんな所に繋がっていく。自分のやりたいことを見極めることが大事です。そして自分をもっと信じること。日本人の悪い癖は自分を信じられないこと。それは直した方が良い。」と辻さん。その言葉の通り生きてきたからこそ、説得力のある言葉でした。

 「2020年頃、日本で個展をやろうと思っている。その準備のために早くロスの自宅に戻って仕事をしなきゃ」と笑っていた辻さん。年末からずっと賞レース絡みの取材などで多忙で、ゲイリーさんとも「落ち着いたらゆっくり会おう」と約束もしているそうですよ。

※辻さんの直筆サイン入りポスターをシネマイクスピアリ内にも掲出!

By.M