『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
前回に引き続き、社会派な映画がお好きな皆さま、お待たせいたしました!今回ご紹介する映画は3/30(金)公開スティーヴン・スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』です。
本作のトリビアとして有名なのはスピルバーグがSF大作『レディ・プレイヤー1』(4/20公開)の製作段階に入っていたにも関わらず、この台本を読み「この映画は今、撮らねば!今、公開せねば!」と思い立ち、たった9ヶ月で撮り終えてしまったこと。アメリカがトランプ政権となり、大統領が自身に都合が悪い報道は“フェイクニュース”と言い放ち、メディアに圧力をかける事態に陥った時、スピルバーグは過去にあった事件を映画で描くことで今、危機に迫った報道の自由を守ろうと、マスコミにエールを送り、奮起させようとしたと言う・・。かっちょ良すぎるぜ、スピルバーグ!
そしてその過去の事件こそがベトナム戦争が泥沼化し、反戦の空気が漂っていた1971年。
ベトナム戦争における国防総省の最高機密文書“ペンタゴン・ペーパーズ”をワシントン・ポスト紙がスクープしたこと。そこには、戦争が始まる前から調査機関の調べではこの戦争に勝ち目がないという結果は出ていた、にも関わらず、ベトナム戦争は始まり、何度も国民に虚偽の報告がされていた、といった闇の証拠が記されていました。まさに政府にとってはとても都合の悪いニュースが報道でもって明るみになったのです。
もともとはニューヨーク・タイムズが“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在を暴いたことでこの事件はスタート。時のニクソン大統領は即刻出版差し止め命令を連邦裁判所に要求。しかし、ニューヨーク・タイムズのこの行動に触発された(当時はマイナーなローカル紙だった)ワシントン・ポスト紙は機密文章全文のコピーを入手し、スクープを狙います。でもニューヨーク・タイムズの報道に追随することは政府に盾をつくことになり、刑務所行きも考えられます。しかも、スクープを手にしたワシントン・ポストの発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は、自殺した夫のあとを引き継ぎこのポストに就いたのですが、それまでは主婦。経営者としての経験は浅かったのです。
編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)はそんな彼女をサポートしつつも、長くこの世界にいただけにコトの大きさを誰よりも把握した上で、機密文章の公表の判断をキャサリンに委ねます。自分の決断で新聞社の未来を危険にさらすかもしれない、家族さえ守れないかもしれない・・・と置かれた立場に激しく苦悩するキャサリン。(力強い女性を演じるイメージがあるメリルが方々からプレッシャーをかけられ、気弱になりオロオロする様は家柄の良い奥さま感が出ていて、さすが芸達者なメリル!)
でもキャサリンはスクープした時の“代償”よりもジャーナリズムの“正義”を選択。社員が一丸となって大きな闇に立ち向かう様は本当に胸が熱くなります。山が大きく動いた時の新聞社内のあるシーンでは「さすがスピルバーグやでぇーー!!」と心の声が思わず出た演出で、そのシーンのカタルシスだけでごはんが3杯食べられそうです。
報道機関は統治に仕えるもので、政権や政治に仕えるものではない、という報道の自由が謳われる「アメリカ合衆国憲法修正第一条」の意義について今一度訴えるためにスピルバーグはこの映画を作りました。でも今の日本の政治状況を考えてもスピルバーグは日本のジャーナリズムのあり方にも一石を投じるべく、それすら見据えてこの映画を作ったのか?とさえ思ってしまいます。本作はまさに今、観なくてはならい映画なのかもしれません。そして、この事件の後に繋がるワシントン・ポストのスクープが「ウォーターゲート事件」というのがまた痺れます!
By.M
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