『ビューティフル・ボーイ』
ブラッド・ピットが率いる製作会社プランBエンターテインメントはアカデミー賞に絡むような良質な作品をいくつも送り出しています。『それでも夜は明ける』、『ムーンライト』、現在公開中の『バイス』もそう。そんなプランBの次なる作品、4/12(金)公開『ビューティフル・ボーイ』をご紹介します。
6つの大学に合格するほどの成績優秀、スポーツも万能で将来も期待されているニック(ティモシー・シャラメ)。ふとしたことで手を出してしまったドラッグにのめり込んでいきます。更生施設に入り、断ち切ろうとしても再発を繰り返してしまう・・・本作はそんな息子を何としても立ち直らせようとする父デヴィッド(スティーブ・カレル)の目線で描いていきます。
『君の名前で僕を呼んで』でアカデミー賞主演男優賞ノミネート、久しぶりに次世代の若手スターが登場!と日本でも話題になったティモシー・シャラメ。昨年はジョニデの娘さんリリー・ローズ・デップとの恋の噂もあり、そのツーショットのお似合いっぷりに世界中がざわついたと言われています。(私調べ)そんなティモシーくんが “自慢の息子”だったにも関わらずドラッグに堕ちていく、という若者を演じた訳ですが、もうベストキャスティングの極み。「全てを持っているように見える彼がなぜ、どうして・・?」と両親を始め、観客も「なんで?」という思いを共有するのにティモシーくんがこの役を演じたということはとても重要でした。
でも本当に「一体なぜ??」
この映画ではドラッグの危険性を描く一面もありますが、その主題はやはり親子という関係性の難しさ、危うさ、厳しさです。ニックは非の打ちどころがない程の若者です。父のデヴィッドは再婚していて、義母、異母兄妹と暮らしていますが、その家庭内においても彼は立派で誰からも愛されている息子でありお兄ちゃんです。でも完璧な存在だったが故に彼はより完璧さを自身にも求め、どんどん追いこんで自分を見失い、良くありたいという願いが却って物足りない、という感情を強くさせ、手にしてしまったのがドラッグだったのです。
もちろん、断ち切ろうとはするのですが誘惑に抗えない、誘惑に負ける自分が嫌やで自分をさらに追いこみ、そこから逃げたくてまたドラッグに・・・、更生施設に入っても再発。でも、そんな悪夢のようなループの中でも父デヴィッドは決して彼を見捨てることはしなかったのです。
深い愛情を注いでも、お互いを思いやっていてもなお行き違ってしまう感情に憤り、それでも息子が立ち直れると信じ続け、裏切られても、裏切られても息子を愛し続けるデヴィッドの悲痛な表情には本当に胸が締め付けられます。相手を思っているだけでは足りない、むしろそれが重荷にもなる、って本当に難しい・・・義母も実母やデヴィッド、そして一番にニックとの関係性に気遣っているからこそ、終盤に放たれる彼女のある台詞、行動も痛い程刺さります。
この映画が描くように問題解決の糸口は結局その人自身の中にある、とは思います。でもそれがドラッグを伴った場合には特に周囲の献身的なサポートなくしては為し得ない、ということを本作はとてもリアルに感じさせます。
ニックが何度も挫折を繰り返したように、ドラッグに依存した人が立ち直ることは決して簡単なことではないのですが、本作は実在する人物の回顧録を元に作られた映画で、現在のニックはNetflixの大ヒットドラマ「13の理由」を手掛けた脚本家として活躍している、という事実を知るにつけ、失敗しても誰しもワンスアゲイン出来るし、社会がそんな空気を作っていくことの必要性も感じたりするのです。
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