『アメリカン・アニマルズ』
皆さん、こんにちは。今回は普通の大学生が起こしたトンデモな事件を描く5/17(金)公開『アメリカン・アニマルズ』をご紹介します。
トランシルヴァニア大学の図書館で起きた強盗事件。狙われたのは時価1200万ドル(およそ12億円)を越えるジョン・ジェームス・オーデュボンの画集「アメリカの鳥類」。犯人は4人の大学生。何一つ不自由のないはずの彼らがなぜそんなことをしでかしたのか。本作はまさかの実話の映画化です。
あらすじだけだとこれまでもあったような内容ですが本作が面白いのは役者たちが演じてみせるフィクションパートと実際に強盗を犯した4人の若者が登場するノンフィクションパートの2つが融合しながら物語が進行すること。つまりドラマ部分とドキュメンタリー部分が混在する作りになっています。そして12億円相当の強奪事件に関わらず犯人たちが手練集団でなく、全くもってヘタレであったこと。
大学図書館にある巨大で高額なヴィンテージ本を盗むという計画は主犯格のウォーレン(エヴァン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)が中心になって企てられるのですが、二人は秀才エリック(ジャレッド・アブラハムソン)と実業家として既に成功していたチャズ(ビレイク・ジェナー)を巻き込みます。が、どう見ても成功するとは思えない彼らのやり取りが描かれていきます。
練られた計画やチームワークやら、とにかく細心の注意を払い下準備をせねばうまくいくはずもないのに、寄せ集めチームならではの行き当たりばったり行動は案の定やることなすこと全て裏目、裏目に。あまりのおトボケぶりに爆笑してしまう程のトホホ感が満載なのです。
そもそも彼らがなぜ犯罪に手を染めようと思い立ったのか。それは「これがうまくいけば、今までと違った自分になれるかも」、「何てことない日常をぶち壊すための“何か”が俺には必要なんだ」という、その時が来たら何かきっとやれる俺!(何の根拠もないけどな!)という漠然とした衝動が彼らを突き動かしていたんです。根拠のない自信をもった若者ほど怖いものなしの存在はありません。
彼らには「これをやり終えた後に明るい未来が待っている俺たち!」という予想図しかないのです。でも何者でもない自分に憤り、「こんなハズじゃない、自分は何か出来るんだ、選ばれた人間なんだ。俺はまだ本気を出していないだけなんだ」という感情を抱えることって若い頃には誰しも思う時期があると思います。
なので、最初はトンチンカンな方向にしか進まない犯罪ゲームをハラハラしながら見ていたのに、彼らの内面が浮き彫りになるにつけ、「これってむちゃくちゃ青春映画じゃないか」と思わされたのです。
そして、そんなテーマも内包しているが故に、この映画がドラマ部分とドキュメンタリー部分で描かれているという手法が生きてきます。ドラマパートとして描かれる荒唐無稽としか思えない彼らの一連の行動も、本人たちがスクリーンに登場し、その時の自分を回想するシーンが挿入されると、そうするしかなかった彼らの感情がリアルに沁みてくるんです。やったことはおバカな行動なんだけど、ちょっと切なくなっちゃいます・・・自身の行き場のない感情と折り合いをつけられない若者が戸惑いみせる物語、私は大好物です。
この事件を通して彼らは何か掴んだのか、変わることが出来たのか、それは是非スクリーンでご堪能ください。
この映画のエンドロールが流れる時に私はそっと心の中で『青春時代』(作詞:阿久悠)を流してみました。
By.M
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