『パラサイト 半地下の家族』
新年を迎えると映画業界はアカデミー賞のノミネーションでザワザワし出す頃。新年1本目は第72回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドール賞を受賞、オスカー前哨戦でも常に話題の中心になっている1/10公開『パラサイト 半地下の家族』をご紹介いたします。
家族全員失業中、“半地下住宅”で貧しい生活を送るキム一家。大学受験に失敗し続けている長男ギウ(チェ・ウシク)はエリート大学生の友達に家庭教師の仕事を紹介され、身分を偽り“高台の大豪邸”に住むパク一家の元を訪れます。高給バイトを見つけたギウはこれを機に、セレブ一家にどんどん寄生(パラサイト)していきます。
前回同様、新年なのでぱ~っと明るく景気のいい映画や心穏やかになる映画を紹介したかったのですが、今回もそんな心持には決してならない映画です(笑)。でもまさに“今”を描いた作品ですし、アカデミー賞ノミネート確実(作品賞もあるやも!?)なのでやっぱりこのタイミングでご紹介するのが一番!オバマ元大統領も2019年お気に入り映画の1本として紹介しています。
さて、底辺一家が上流一家にどんどんパラサイトしていく、という大枠のストーリーラインを聞くだけでゾワゾワするのですが、紹介すると言いながらも真っさらな気持ちで観ていただくのが一番!という類の映画です。もう私ごときが今さらここがどうこうで、と説明するのも野暮なので、紹介することを放棄してもいいんじゃないか?と思っているぐらいです・笑
でもちょこっとお伝えするならば、この映画は現代社会が抱える“格差・二極化”問題をテーマにエリート第一主義的な思考にがんじがらめになっている韓国社会独特のエッセンスも加え、その時代性をえぐりまくった1本になっています。そこには社会派な香りがプンプンなのですが、前半はまさかのコメディ。何をやってもうまくいかないキム一家があの手この手でパク一家に取り入ろう、そのチャンス逃すまじと悪戦苦闘する様はすっとこどっこいな展開ありつつ、悲哀ありでどんどん感情移入してしまうというか・・・。
その辺りはキム一家の大黒柱のお父さんを演じるソン・ガンホを筆頭に、キャスト全員見事なまでの手練の演技で、グイグイ観客の心を掴んでいきます。今に始まったことではないですが、韓国映画における役者たちの演技は毎度クオリティが高すぎるし、顔(面構え)、表情が本当に素晴らしい。
家賃の安い半地下に住み、街に飛ぶフリーwi-fiをキャッチしてネットをし、家族総出で内職をする、そんな一家が身の丈を遥かにすっ飛ばした夢を見たんじゃない、“ただ普通の生活をしたい”と望んだだけなのにとんでもない状況に吸い込まれていく様がコメディ~サスペンス~バイオレンスと形を変え描かれ、見事なまでにエンタメ映画として昇華され、迎える驚愕のラスト!!観客すら「こんなハズじゃなかった」と、声にならない声を出してしまうんじゃないか、と。
本作の監督はポン・ジュノ。カンヌのパルムドール受賞で世界的映画監督の1人として今最も脚光を浴び、その才能が絶賛されていますが、長編デビュー作「吠える犬は噛まない」(00)を始め「殺人の追憶」(03)、「母なる証明」(09)など、日本では既にその才能は知られていた彼。
ほぼ全ての作品(長編映画)が日本でも公開されていただけに「ポン・ジュノが凄い映画を撮ったって?」という問いには「当たり前だよ、だってポン・ジュノだよ!」と声を大にして言いたい映画ファンも多いんじゃないでしょうか?もうとにかく年初めから必見映画、現るです。
最後になりましたが、本年も宜しくお願いいたします!
By.M
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