『フェアウェル』
急に秋めいてきたこの時期にぜひご覧いただきたい作品の登場です。全米では(みんな大好き!?)A24が配給、4館での限定公開からスタートした後、口コミで上映館が拡大し大ヒットに繋がった10/2(金)公開『フェアウェル』をご紹介いたします。
NYに暮らすビリー(オークワフィナ)。中国で生まれ、6歳の時に両親に連れられアメリカに移住した彼女、今は一人暮らし中。憧れの仕事をめざすもまだ夢は叶っていない。そんなある日、両親から大好きな祖母ナイナイ(チャオ・シュウチェン)が余命3ヶ月であることを知らされます。従兄の結婚式を口実に親戚一同が中国にいるナイナイの元に集結するのですが本人には病状を告知しない、と決めた家族の決断にビリーは納得がいかず悶々としてしまいます。
本作は北京に生まれ、マイアミで育ったルル・ワン監督(/脚本)の実体験を元に描かれました。ビリーを演じるオークワフィナは女優、ラッパーと多方面で活躍、『オーシャンズ8』や『クレイジー・リッチ!』の演技で高く評価され、これまではコメディエンヌとしてアクの強い役柄を演じていました。そんな彼女が一転、等身大の女性を演じる訳ですが、自身もアジア系アメリカ人の両親を持ちNY育ち、4歳の時に母親が亡くなり祖母に育てられたこともあり、この役を演じるのは運命的なキャスティングとも言えます。(実際、本作の演技でオークワフィナはゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞!)
大好きな祖母が自分らしく最期を迎えられるように・・という思いと、本当に重い病なの?おばあちゃんとの別れが来るなんて認めたくない!という相反する感情を抱き、また告知をするしないで家族と意見が合わずでやり場のない気持ちも抱えたビリー。オークワフィナの猫背の佇まいと合い間って、彼女の所在ない感じがとても伝わってきます。
そんな状況を知ってか、知らずか(知っていても知らないフリをしているのか?)ナイナイばあちゃんは「ご飯はちゃんと食べてるの」「健康なの?」といくつになっても可愛い孫娘ビリーを気遣い、独自の健康法を伝授する様はとても愛に溢れていて、そんなやり取りを観ているだけで切なくなります。
ビリーやビリーの両親の他にも日本に住む伯父ハイビンに息子ハオハオ、彼の日本人の婚約者と多様な人種、生活環境、考え方の違いが表面化していくので、昨今の“多様性”を描いた映画として注目を浴びることも多い本作ですが、物語の中心はとてもパーソナルな感情の揺れ動きなので、観た人それぞれの経験や境遇とオーバーラップし、自分の物語と重ねてしまう人も多いと思います。
この映画の中で「西洋では人生はその人(個)のものと考えるだろうけれど東洋では全体(家族や社会)の一部なんだ」という伯父の言葉でビリーは思い悩みます。誰かのためという思いはもしかしたら自分へのエクスキューズなんじゃないか、あなたのためって実は自分のため?と。誰かを想うことが周囲をその人を余計に苦しめるのかも、という不安も湧き上がります。“死”をどう捉えるのか、それはつまりどう生きるのかに繋がるので正解は見えず気持ちの行き場を失いそうになるのですが、この映画ではそんな想いもすっと救ってくれるエンディングが用意されているのでした。
“嘘”から始まる温かく優しいこの映画に気付けば元気を貰い、映画館を出る時にはナイナイばあちゃんの健康法「はっ!ほっ!」を実践してみたくなると思いますYO!
個人的にも本年度ベスト級なので多くの方に観ていただきたい1本です。
BY.M
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