ウラシネマイクスピアリブログ

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『ディア・エヴァン・ハンセン』

 舞台・ミュージカル好きな方ならタイトルを聞いただけでピピン!とくるかもしれません、今回ご紹介する作品は11/26(金)公開『ディア・エヴァン・ハンセン』です。

 主人公のエヴァン・ハンセン(ベン・プラット)は周囲とのコミュニケーションに問題を抱えていて学校でもいつも一人ぼっち。セラピーの一環として毎日自分宛に手紙を書くことに・・・。「親愛なるエヴァン・ハンセンへ」から始まるこの手紙を同級生のコナー(コルトン・ライアン)に奪われてしまうのですが後日、彼が自ら命を絶ったことを知ります。コナーの死後、あの手紙を見つけた彼の両親はそれをコナーがエヴァンに宛てて書いた手紙と思い、エヴァンを唯一の親友だったと勘違いします。その日からエヴァンはありもしないコナーとの想い出を思わず両親に語ってしまい、それは思わぬ方向に展開していきます・・・

 本作は音楽を『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』のコンビ、ベンジ・パセックとジャスティン・ポールが手掛け、2017年にトニー賞で6部門を受賞した人気ミュージカルの映画化。エヴァンをオリジナルキャストのベン・プラットが演じていて、脚本も舞台版と同じということからも舞台版のクオリティをそのままに、未だ『ディア・エヴァン・ハンセン』に出会っていなかった人たちにも心をこめてお届けします、という気概を感じます。

 はじまりは良かれと思ってついた小さな嘘でした。息子コナーを亡くした両親を前に真実が言えなかったエヴァンは「こんなことをした、あんなことをした」とどんどん嘘を上塗りしていきます。悪いこととはわかっていても、話を聞いて喜んでくれるコナーの両親を見ると彼らが求めている話をしてあげたかったエヴァン。そしてコナーの追悼会で彼に捧げたスピーチはあっという間にSNSで拡散され、ついには同じように孤独を抱える若者たちの共感を得ます。誰にとっても孤独は身近なものだったから。

 物語の前半はエヴァン自身が抱えている孤独にフォーカスが当てられていますが、彼の周りに人が集まるにつれ、孤独を感じることは限られた人の悩みなんかではないし、誰にだって秘めた悩みはあるし、解決し辛い問題を抱えている、ということをエヴァンに気付かせます。特に学校でも優等生的存在で明るいクラスメイトとして描かれるアラナなんかもそう。一見、活発に見えるアラナですらそれは彼女の一部分でしかありませんでした。

誰もが強い人間じゃないし、そう見えている人も決してそうじゃない。誰だって心のどこかに孤独を抱えて生きているかもしれないけれどその人自身が“孤独”であることとイコールではない、あなたは決して一人なんかじゃない、そんなメッセージを歌とお芝居でもって丁寧に表現していくのがこの映画なんです。

 そしてこの映画ではエヴァンだけでなく、誰の心の中にもある悲しみや不安にそっと寄り添う眼差しが感じるれるからこそ、多くの人の心を打つんだと思います。本作の監督は『ウォールフラワー』や『ワンダー 君は太陽』のスティーヴン・チョボスキー。彼が描く映画には「その悲しみは君一人だけのものじゃない・・」、そう言ってくれているような優しさにいつも溢れています。

エヴァンを演じたベン・プラットもその想いを受け取るかのように、じっくりと歌いあげるシーンの数々は楽曲の素晴らしさもあって、その歌声を聴くだけで胸がいっぱいになります。エヴァンと同じ世代、若い方はもちろん、多感な時期のお子さんを持つ親世代にもグっとくる作品だと思います。何てったってエヴァンの母親はジュリアン・ムーア、コナーの母親はエイミー・アダムスとオスカー常連俳優が演じているんですもの。しかもこの二人、やっぱり歌っても抜群です!

 コロナ禍でクローズしていたブロードウェイでの舞台版『ディア・エヴァン・ハンセン』も間もなく開幕だそうですが、NYへの渡航はまだ厳しい時節柄なのでぜひスクリーンで本作をご堪能ください♪

By.M