『Coda コーダ あいのうた』
ロバート・レッドフォードが立ち上げたサンダンス映画祭は世界最大のインデペンデント映画祭。ここで注目を浴びた作品はその年の賞レースを賑わすというので知られています。今回は2021年サンダンス映画祭で監督賞、観客賞ほか4冠に輝き、この後のアカデミー賞のノミネートにも期待がかかる1/21(金)公開『Coda コーダ あいのうた』をご紹介いたします。
小さな海の町で両親と兄の四人家族で暮らすルビー(エミリア・ジョーンズ)。家族の中でたった一人耳が聴こえる彼女は一家の“通訳係”として稼業も手伝いながら高校生活を送っています。そんなある日、秘かに憧れていたマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と同じ合唱クラブに入ったルビーは顧問のV先生(エウヘニオ・デルベス)に歌の才能を見い出され、マイルズと共にバークリー音楽大学への進学をめざすことに・・。でも耳の聴こえない両親たちは猛反対します。
この映画はシネマイクスピアリでも2015年に上映したフランス映画『エール!』のハリウッドリメイクなので、そちらを記憶している方もいらっしゃるかもしれません。オリジナル版をほぼ踏襲したハリウッド版ですが聴覚に障害がある役柄を実際にろう者の役者が演じたことが一番の違いで、彼らの生き生きした演技もあり、劇中のキャラクターがより魅力的に、また物語とリンクする選曲の妙もあってオリジナル版以上に爽やかな作品に生まれ変わりました。
主人公のルビーはなりたい自分と他者(ここでは家族)から求められる自分との狭間で苦しむ女の子です。これまでもこういった主人公の映画はいくつもありましたが、どの映画を観ても「わかる、わかる」と感情移入しちゃいます。だって誰しもそういったことで1度は悩みますもんね。
中でもルビーは家族の中でたった1人耳が聴こえるということで、家族から(特に両親からの)頼られ度はかなり高かった。ルビーにとってもプラスαで家のこと、稼業のことをやるのは当たり前で、自分のことは二の次にしても家族を優先してきました。それも個性的で明るい家族のみんなが大好きだったから。
でも好きな男の子の存在や今まで気付いていなかった自分の才能の目覚めで初めて自分のことも第一に考えたいと思うのです。これもルビーが大人になる成長過程なのですが、両親はそれを素直に受け止められません。だって、耳が聴こえない両親は彼女に本当に才能があるのかわからないし、ルビーが一人立ちするということは自分たちも新しい一歩を踏み出さないといけないから。大人にとっても、いや大人だからこそ、新しい環境に身を置くことは不安です。ましてやこの家にとってのルビーの存在は大きすぎました。
それでも彼女の可能性を信じてあくまでもフラットな目線でルビーを支える顧問のV先生や、何より妹思いのルビーのお兄ちゃんが後押しします。(ダメダメだけど実はむちゃくちゃいいヤツというお兄ちゃんが登場する映画はだいたい名作です・笑)
劇中での“聴こえない”ということを我々にも疑似体験させるシーンや夢を諦めるな!と皆から背中を押され、両親にその気持ちを歌で伝えるシーンなどキラリと光る演出の数々に涙腺も崩壊!これから春に向かい、新しいことにチャレンジする人、新しい環境に身を置く人、それを見送る人、見守る人、そんな旅立ちの場面にいる方にもぜひ観て頂きたい1本です。
By.M
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