『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊』
今回は唯一無二の世界観でもってトキメキを与えてくれる映画監督ウェス・アンダーソンの最新作にして記念すべき長編10作目をご紹介いたします。1/28公開『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊』、長くて覚えられないから略して『フレンチ・ディスパッチ』です。
舞台はアメリカの新聞社がフランスで発行していた架空の雑誌“フレンチ・ディスパッチ”の編集部。様々なジャンルを扱い、世界中で人気の雑誌だが、編集長(ビル・マーレイ)が最新号の制作中に急死。遺言により急遽廃刊が決まったため、最新号は編集長の追悼号にして最終号に。本作はウェス・アンダーソン監督自身が愛して止まないフランス映画、そして何よりアメリカの雑誌“ニューヨーカー”へのオマージュを捧げる物語です。
映画は1つのルポタージュと3つのエピソードが描かれ、この映画を観ているだけで雑誌“フレンチ・ディスパッチ”を読んでいるかのような気分が味わえるオムニバス風な構成になっています。
幕開けは編集長が愛した街アンニュイ=シュール=プラゼを向う見ずな記者(オーウェン・ウィルソン)が自転車でめぐって紹介する記事。続くはアート界隈の全てを知り尽くす記者(テルダ・スウィントン)による服役中の天才アーティスト(ベネチオ・デル・トロ)と看守シモーヌ(レア・セデゥ)との物語を、そしてジャーナリスト魂に溢れるルシンダ(フランシス・マクドーマンド)が担当するのは学生運動に身を投じる若きリーダー(ティモシー・シャラメ)の情熱と恋、その顛末を。
最後は街の警察署長(マチュー・アマルリック)の一人息子の誘拐事件とその解決に奮闘する署長お抱えシェフのサスペンスフルな記事を孤独な記者(ジェフリー・ライツ)がそれぞれ担当します。それを超絶こだわり屋さんなウェス・アンダーソン監督が一切の妥協なく映像化!
ウェス監督作品(『グランド・ブダペスト・ホテル』、『犬ヶ島』、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』ほか)を1度でも観たことがある方ならご存知のカラフルな色使い、十八番のシンメトリー構図など本作でももちろん健在な訳ですが、それに加えて、カラーからモノクロになったり、アニメパートや演劇パートがあったりとその表現方法はこれまで以上にフリーダム!解放感に満ち溢れ、ウェス・ワールドはここに極まれりと絶好調です。
子供の頃、お気に入りの絵本の頁をめくるだけで、目に飛び込んでくる色や形を眺めているだけで気持ちが高揚する、そんな記憶が呼び戻されるかのようにトキメキとちょっとしたユーモアがこの映画にはたくさん詰まっています。シネフィルな方々がご覧になるとあの映画のオマージュだな、あの映画みたいだな、とニヤリの連続なんですが、そんなこと知らなくても、わらかなくても一目で心奪われちゃう。1シーン、1シーンに“いいね”を連打していく、そんな気分で愛でる、そんな楽しみ方でも全然ありだと思います。
何かにつけてもおシャンで、可愛いーーの世界観に演技派な役者たちや映画ファンにお馴染のキャストたちがここかしこと存在しているだけでクスっと笑っちゃう。特に本作におけるレア・セドゥはレア史上最強なので必見です。
この作りこまれたウェスの世界観は誰の目で見ても「どんだけの労力なのだ!」と思うのですが、1年に1本映画を撮りたいと語るウェスは、今の時点で既に1本撮り終えていて、この後すぐ様新作に取りかかるらしいです。なんて働き者!!加えて、日本の古い旅館をリノベして旅館業もやりたいから良い物件があったら教えて!と結構、マジに考えていらっしゃるご様子です。(それ実現してーーー)
愛すべき対象への敬意、ウェスがこだわりぬく美意識の具現化、それをサポートするキャスト、スタッフたちの一致団結感とこの映画を観ているだけで多幸感に泣けちゃう程ですが、でも映画を観た方ならわかるはず、“No Crying”なのだ、と。
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