『わたしは最悪。』
お悩みの多いお年頃の皆さん、そんな時を経て今を生きる皆さんに見逃さないでほしい・・・そんな思いでお届けする1本を今回はご紹介します。7/22(金)公開『わたしは最悪。』です。
主人公のユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)は30歳を目前にした女性。学生時代は成績優秀で何をやっても卒なくやれてしまうのに今の自分に満足出来ず、その道筋をどんどん変えてしまう。今は恋人アクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)とそれなりに楽しい生活を送っているけれど年上の彼や周囲からは結婚、出産といった未来を仄めかされ若干うんざり。そんなある日、彼女は紛れこんだパーティーで若くて魅力的なアイヴィン(ハーバート・ノードラム)と出会う・・・
実は映画を観る前は自己中な主人公女性が周辺を巻き込んで迷惑をかけまくるお話なのか?と思ったのです。だって原題は『The Worst Person In The World』、邦題も『わたしは最悪。』、どんだけ主人公は最悪なんだ!と。
でも序盤から「あーなんかわかる、わかる」の連続です。ユリヤは周りより器用でちょっと才能もあるからこそ余計に「私の人生これじゃない。もっと何かあるハズ」と悶々としているようにも見えますがこれって思い当たる節がある方、多いと思うんです。これぐらいのお年頃と言えば、わからないことだらけだった若い年代を経て、その先の未来が一気に現実化してくる時期。先に結婚し次のステージに進んだ友達の存在に心なしか焦ったり、その一方「いや、私はまだ自分の人生見極められてないから。これからまだ何かあるし、それ見つけなきゃだし」と息まいてみたり。
あれぐらいの年代は自分の非凡さを棚に上げて「私は私の人生の主人公!私が決める、私の人生」みたいな気概が妙にある気がするんです。自分に自信がなくても「私の人生だものそのセンターステージに立って出来得る限りの最良を生きたい!」みたいな願望と言いましょうか。だからユリヤの言動は時に大胆だったり突拍子がないこともあるけれど概ねわかってしまう、というか“いつか通った道”感があるんですよね。
恋人アクセルの存在もこのまま一緒にいられればそれはそれで良い気がするけれど、彼との結婚を選ぶとその先は自分で人生選べない気がして一歩先に進めず、そんな時にタイプの違う男性との出会いで揺れるユリヤ。刺激はなさそうだけど安定している今彼と不確定要素だらけだけどここではないどこかに連れて行ってくれそうな男性・・・こういう迷いも巷にあるあるじゃないですか。
でも人生は思い通りに進んでいかないということはその後の経験なのか時間経過なのか次第と気付いていくもの。そして人生は「掴んだ!」と思った矢先にその手からこぼれ落ちていきがち。早過ぎたり遅すぎたり、今じゃない感に襲われるもの。そんな人生のままならなさを描いているのがこの映画だと思うんです。
そして目の前にある人生は自らが選んで来たように思えても決してそうではない、という事をユリヤを通して描いていきますが、もちろんそれは女性に限ったことではありません。彼女と関わることとなる男性の行く末を見るにつけ、人生って得体のしれない大きな力が働くものよね、それってもうどうにもならないものね、と思うのです。
でもいつしか(それも気付かないうちに)そのままならなさを受け入れられる時がやってきて、色々楽になっていく気がします。「人生なんて選べないもの、選んでいるように思えて錯覚しているだけだもの。あの時のあなたにとって“わたしは最悪。”だったかもだけど、人生ってそんなもんだしね」と私はスクリーンの中のユリヤに「とりあえず一杯やっとく?」と誘いたくなりました。
By.M
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