ウラシネマイクスピアリブログ

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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 3/13(日本時間)に開催するアカデミー賞、今年はどんな映画が話題を呼ぶのか!前哨戦と言われる映画賞が続々発表されている中、この映画が最も勢いづいていると言われています。今回ご紹介するのは3/3(金)公開『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、略して『エブエブ』です。

 主人公は中国からアメリカに移住してきたエヴリン(ミシェル・ヨー)。経営するコインランドリーは破産寸前、高齢の父親の介護といつまでも反抗期な娘ジョイ(ステファニー・シュー)に頭を抱え、差し迫った確定申告では国税局からやり直しを命じられる。側にいる夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)は優しいだけで全く役に立たない・・・・。エヴリンのイライラはMAXだった。

そんな時に突如、“別の宇宙(ユニバース)からやって来た”と名乗る夫ウェイモンドに「全宇宙が滅亡しようとしている!カオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ。」と告げられる。言われるがままマルチバースの世界に飛び込んだ彼女は別の世界の自分の力を借りて救世主として覚醒。全人類の命運をかけた戦いに足を踏み入れる!

 って説明したところで「どんな話なのー?」と頭を抱えてしまうかも。でも「Don‘t Think, Feel!」、百聞は一見に如かず。主人公のエヴリンよろしく、とにかく「エブエブ」の世界に身を投じてみてほしい。話はそれからだ!というのがこの映画。

 マルチバースの世界の自分とはいわゆる選ばなかった人生の自分たち。つまりエヴリンは意思の選択によって次元を超え無数に同時に存在しています。エヴリンは今の世界では冴えないどこにでもいるような母親だけど、別の世界ではカンフーの達人、シェフ、ハリウッドスター、はたまた人間ですらない石ころエヴリンとしても存在しています。

 そんな彼女が別の世界へジャンプし、別次元にいる自分のパワーを取り込むことで悪と戦うんです。但し、ジャンプをするにはとにかく馬鹿げたことをすることがそのスイッチになっている、というとんでも設定なので、前半はギャクのようなシュールなシーンのオンパレード。「一体何を見せられているだ?」と頭を悩ませるシーンありつつ(笑)、別の次元の自分からパワーをもらったミシェル・ヨー姐さん扮するエヴリンがカンフー・アクションでもって悪を倒しまくる展開はとにかく爽快でかっちょいい。だってヨー姐さん、80年代のカンフー・スターだもの。

 前半は笑いとアクションと奇想天外な展開にとにかく追いつくのが精一杯な感じだけれど、次第と物語はエヴリンの内なるところへフォーカスしていきます。エヴリンは自分の人生をハイパー・ジャンプすることでその一端を垣間見て、自分の無力さも感じるのですが、ある人からのささやかだけどこれ以上ない愛溢れる言葉にある境地に辿り着くのです。それはうまくいっていなかった娘や夫、ついでに険悪だった国税局の担当者との関係にも大きな変化をもたらす光となっていきます。そう、正直すっちゃかめっちゃかだった物語が後半にきて、まさかの感動、エモーショナルな波に襲われるのです!ここで親子愛、夫婦愛、家族愛と様々な愛のカタチを見せつけられるとは思わなんだー!もう一体、どんな展開なんだーー!エモい、エモ過ぎる。

 そしてこの映画をさらにエモくさせたのはエヴリンの夫を演じたキー・ホイ・クァンの存在です。『グーニーズ』や『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』で子役として一躍人気者になったクァン。でも俳優を続けることはアジア系の彼にとってはとても困難。それでも映画の世界を捨てられなかったクァンは長らく裏方として映画業界に身を置いていたのです。しかし、ある映画との出会いで再び俳優業にチャレンジしようと一念発起、そこでゲットしたのがウェイモンド役でした。

クァン自身もあったかもしれない人生や自分の存在意義について自問自答しながら生きていたに違いありません。でも役者として20年ぶりにハリウッド映画にカムバック、しかも彼の出自と同じく移民の家族を登場人物に、人生の可能性についてポジティブスタンスでもって描いたこの映画で、というそのめぐり合わせ、それ自体がドラマティックで、グっときちゃいます。そんな彼は先日、アカデミー賞の前哨戦の1つアメリカ製作者組合賞で助演男優賞をアジア系俳優として初受賞という栄光を手にしました。スピってる! 

 主要キャストがほぼアジア人で構成されるこの映画がアカデミ―賞でどんな栄光を手にするのか、期待が高まります!

By.M