『逆転のトライアングル』
今回は第75回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドール受賞、本年度アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞と主要3部門ノミネート、2/23(木・祝)公開『逆転のトライアングル』をご紹介いたします。
売れっ子モデルでインフルエンサーのヤヤ(チャールビ・ディーン)とモデルのカール(ハリス・ディキンソン)は豪華客船クルーズの旅に出かける。お金持ちでくせ者だらけの乗客と共にバケーションを満喫していた二人。しかしある夜、船が嵐で難破、海賊に襲われ無人島に漂着する。食料も十分になく、携帯もネットも繋がらない極限状態で、サバイバル能力を武器にその場の頂点に君臨したのは船の掃除婦だった・・・
この映画、社会のヒエラルキー逆転劇をブラックユーモアたっぷりに描いただけではありません。冒頭からルッキズムの象徴ともいえるファッション業界そのものを皮肉ったり、そこでの男女格差(ファッション業界の場合は女性優位社会のようです)を感じ悪く描き(褒めてます)ニヤニヤが止まりません。その流れで描かれるヤヤとカールのデートでの食事代、どっちが払うか問題のやり取りも意地悪が過ぎる!!とにかくシニカル、そして生々しい、でもそこに真実が見え隠れするからたまらない。あー嫌な感じ!w
険悪な、でも他人から見るとどーでもいい(笑)デートを経てクルーズ旅行に出かけた二人が豪華客船で一緒になるのはこれまた絵に描いたような大富豪たち。とにかく空っぽで、不遜で「監督、金持ちに恨みがあるんですか?」というぐらいこれまた悪意たっぷりに描かれるのですが、武器製造で財を成した上品極まりない英国人老夫婦の描かれ方なんかも無自覚な人間ほどたちが悪い・・・というのを露呈していて震えます。
客船のスタッフたちも富豪たちからチップをもらうために彼らのご機嫌を損ねないよう、無茶ぶりにとことん応えようとする姿も涙ぐましく・・・持つ者と持たざる者のパワーバランスをこれでもかっ!と描くのですが、嵐に巻き込まれた上に海賊に襲われた一夜を機に、彼らはさらなる地獄絵図な世界へといざなわれるのです。
想像してみてください。豪華客船で贅沢三昧、船内のスタッフを指図する側だった富豪たちが、無人島に流れ着いたが最後、形勢逆転、スタッフから顎であしらわれるような立場になる、そんな皮肉な世界を・・・船内での彼らの行いが傍若無人であったからこそ、それを必要以上に悪意の塊で描いていたからこそ、この無人島パートが引き立ちます。そう、こんなところにお金があっても何の役にも立たない!必要なのは健康な身体とサバイバル能力、それだけーー!なので無人島でのヒエラルキーのトップに立ったのは海で魚を捕まえることが出来、火をおこす方法を知っていた掃除婦アビゲイル(ドリー・デ・レオン)だったのです。
それまで従うだけだったアビゲイル、急に女王の風格です。「なんであんたたちに食料、わけなきゃいけないの?あんたら何かしてくれた?」と言い放つアビゲイルに富豪たち、ぐうの音も出ません。彼女が獲得した優位性はただ状況が変化しただけで得られたものなのですが、いざ持っている側に立つとアビゲイルも瞬時にそちら側の理論で行動する、そんな姿も表面化。生きるか死ぬかというシンプルな環境に放り投げられた人々は適応能力だけを頼りにサバイブしますが、原始的な環境におかれるからこそ人間の本性もどんどんむき出しになっていき、それが最後の最後まで手綱をまったく緩めないままに徹底して描かれるところにも震えちゃいます。
決して初めてのデートで観るのにはオススメしない映画ばかり作るオストルンド監督ですが、長い付き合いの方、今後の付き合い方を悩んでいる方と一緒に観ると色々発見があるかもしれません(ニヤリ)。
しかし人間って愚かな生き物よのぉ~(自戒を込めて)
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