『フェイブルマンズ』
アカデミー賞の発表はいよいよ(日本時間)13日。私がアカデミー会員ならこの映画に投票したい!今回は巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督最新作3/3(金)公開『フェイブルマンズ』をご紹介いたします。
初めて訪れた映画館で観た映画にすっかり魅了されたサミー・フェイブルマン。劇中、列車が激突するシーンに心奪われ父親(ポール・ダノ)に鉄道模型を買ってもらい再現し、父の8ミリカメラでそれを撮影することを母(ミシェル・ウィリアムズ)に提案されて以降、家族の思い出をそのカメラで撮影し、妹たちや友達を登場させる映画を作り、サミーは映画制作の夢をどんどん膨らませていく。ピアニストの母は彼の才能を心から応援してくれたが、エンジニアの父は趣味のお遊びだと思っていた。そんな両親の狭間でサミーは葛藤しながらも自分の夢を追いかけていく。
誰もがその名を知る、監督スティーヴン・スピルバーグに細かい説明は不要でしょう。彼の新作が自伝的映画と聞き「映画の虜になった子供が巨匠スピルバーグになるまでのドリーミングな映画が出来ちゃうのか~」なんて思っていました。しかしそんな私に往復ビンタ!スピ先生に土下座!凄い映画が生まれてしまった・・・傑作誕生!!さすが、さすが!スピ先生!!!
映画の前半はスピルバーグの分身であるサミーが映画と出会い、ガチの映画少年に成長していくシーンが描かれていきます。あくまでも自伝的映画なので脚色要素もふんだんにありますが、これまでのインタビューでもスピ先生が語っていた想い出の断片がエッセンスとなって物語を彩ります。
子供の時から才能ありまくりなスピ少年のムービーは大人顔負けで(You tubeで見られます)、サミー少年が作った映画として再構築されたそれはさらに凄い完成度になって劇中に登場するところなんかはご愛敬。またサミー少年が経験する日常のワンシーンも過去のスピルバーグ作品を彷彿するスピルバーグみ溢れるオマージュ的シーンに溢れ、それを観ているだけどワクワクが止まんない!と心も踊ります。
でもこの映画は監督の自伝的映画で想像するような“光”の部分をフォーカスしただけの作品ではありません。むしろ、それに魅せられた少年が同時に闇の部分を知っていく物語なんです。ある日、フェイブルマン家に訪れた母の伯父ボリス(ジャド・ハーシュ)はサミーに予言めいた啓示のような言葉を与えます。それは芸術がいかに栄光をもたらし、一方で孤独をもたらすか、そしてサミーの才能を見抜いたボリスは彼の映画がどれだけのパワーを持ち、それが彼に不幸をもたらすかを告げます。
この後サミー少年は家族と父の親友ベニー(セス・ローゲン)と一緒に出かけたキャンプ旅行で、期せずして母ベニーの秘密をフィルムに焼き付けてしまいます。サミーは思春期の少年が抱えるには重すぎる事実を知り深く傷つくと同時に映像がただありのままの現実、真実を捉えてしまう事実を身をもって知ることになるのです。それはボリスの言葉通りだったのです。
その後、父親の仕事の関係で引っ越しをし、ユダヤ人家族であること、小柄な体格といったことでサミーは陰湿なイジメに遭い、母も精神のバランスを崩し、彼の心はどんどん引き裂かれていきます。そんな中、彼が撮影した学校行事のショートムービーはクラスメイトから拍手喝采を浴びる一方でサミーをいじめていたクラスメイトには思いがけないトラウマを与えてしまうのです。そこでもサミーは映画が持つ底知れぬパワーに気付かされるのです。
なんだかサラっと書いちゃいましたがこの二つ、本当にとんでもない激ヤバシーンです。「スピ先生、凄いものブッこんできた!」と私、体が固まっちゃいました。家族の物語、サミーの成長譚をサミーの青春の一頁として描いてみせてその実、映画が持つある種の暴力性、映画の本質をまざまざと見せつけるのだから。「スピルバーグの映画愛、受け取っちゃうぞ」と呑気に思っていた私、迂闊過ぎました・・・。
そんな残酷物語ではありますが、仕事一辺倒だった父や自分の思うままに生きた母を決して断罪することなく、むしろ彼らを肯定し、またある人をある人に演じさせ、「映画とはこういうものだ!」という格言を我らにも伝授してくれるサプライズに私は完全降伏しました。最後の最後に映画の魔法をかけるなんて・・・もう、スピ先生ったら!
By,M
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