『オットーという男』
今年のアカデミー賞は下馬評通りの『エブエブ』こと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が最多7部門を受賞する圧巻の強さを見せ閉幕しました。さて今回はアカデミーには絡みませんでしたが良質な1本、3/10(金)公開『オットーという男』をご紹介いたします。
実は本作、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートもされたことがあるスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のハリウッドリメイク。シネマイクスピアリでも上映したのでそちらをご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。頑固なおやじを“いい人”代表のトム・ハンクスが演じます。
いつもご機嫌斜めなオットー・アンダーソン(トム・ハンクス)は曲がったことが大嫌い。ゴミ出し、駐車の仕方などなどルールが守られないことに我慢ならないから日課のご近所パトロールに余念がない。そんなある日、向かいに新しい家族が引っ越してきた、その出会いがオットーを変えていくことに・・・。
冒頭からオットーの偏屈っぷりが描かれ「こんな人が身近にいたらちょっと面倒だな~」とは思うのですが、言っていることは大方真っ当で若干融通が利かな過ぎるというのが彼の特徴。とは言えそんな人にはなるべく関わらないように生活していこうと思うのが世の常ですが、ご近所さんは挨拶もするし、何ならちょっと頼りにしている風もあります。実はオットー最愛の奥さんに先立たれていて一人ぼっち。そういう境遇をご近所さんは察しているから、彼を無視することはありません。
周囲の温かさがあることにオットーはきちんと気付けてればよかったのですが、愛する人を失い、生きる希望を失くしているから他人からどう見られようなんてお構いなし。だからつっけんどんで近寄りがたい存在になってしまうんですよね。オットーは「生きてく意味なんてない」と自殺まで考えるのですが、その度に邪魔が入ったり、ご近所トラブルが発生したりでオチオチ!?自殺も出来ないという・・・オットーの身の上を考えるとシリアスにならざるを得ないのに、申し訳ないけど「クスっ」と笑ってしまう、オットーの毎日には人間の悲哀が詰まっています。
そんな彼の前に現れたのがとにかく陽気なマリソル(マリアナ・トレビーニョ)とその一家でした。マリソルはその人懐っこさでオットーの生活にグイグイ入り込んでいきます。愛想のないオットーにも偏見を持つことなく接し、得意な料理で彼の心も胃袋も掴む!彼女のコミュニケーション能力は見習う点多し。旦那さんのトミーは縦列駐車も出来ない不器用っぷりだけど、困った時は素直にオットーに頼り、これまた彼なりの人間力を発揮する、ナイス夫婦です。
人生を諦めていたオットーだったのですが助けてほしい時に素直に助けを求め、心配な時はその気持ちを素直に伝え、理不尽な思いをした時もきちんと伝える、そんな真っすぐで飾り気のないマリソルとのやり取りで次第と彼の気持ちに変化が訪れるようになります。そう、誰だって誰かの役に立つし、誰かに助けられて生きていているんだもの・・・。その気付きが生きる道しるべを見失っていたオットーを目覚めさせるのでした。
本作はスウェーデンオリジナル版に思いの外、忠実なのですがマリソルの人物像により深みがあるところ、周囲のキャラクターに現代的エッセンスが加わっているところなどのアップデート部分が絶妙なので、オリジナルを知っている方にもご覧になってほしい1本です。そして“本当は悪い人じゃない”というオットーを演じたトム・ハンクスの演技は言うまでもなく、マリソル役のマリアナさんとにゃんこのキラリ☆と光る助演っぷりも見どころです。
By.M
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント