ウラシネマイクスピアリブログ

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『The Son/息子』

 今回は3/17(金)公開『The Son/息子』を紹介いたします。
認知症が進行していく父親の視点で老いと喪失、親子の繋がりを描き、21年度のアカデミー賞で主演男優賞と脚色賞を受賞した『ファーザー』、その斬新な演出方法で話題となったフランス人監督フロリアン・ゼレール。前作に続き、劇作家でもある自身の戯曲を映画化したのが本作。完成した脚本に惚れ込んだヒュー・ジャックマンが面識のなかったゼレール監督に熱烈にオファーし、主演、製作総指揮も勤めています。

 大統領選挙の参謀チームに誘われるほどのエリート弁護士ピーター(ヒュー・ジャックマン)。妻のベス(ヴァネッサ・カービー)と生まれたばかりの息子と幸せな日々を送っていたが元妻のベス(ローラ・ダーン)から17歳の息子ニコラス(ゼン・マクグラス)が不登校でどうしていいかわからないと相談される。父親と住みたいと懇願する息子を拒絶することも出来ず、ピーターとベスは望みを受け入れニコラスを加えた新しい生活をスタートさせるが・・・・

 とにもかくにも、親子関係って本当に難しいー。身内だからこそこじれちゃうことってあると思うんです。そこには「こうであってほしい」「こうありたい」という理想が身内というだけで妙に厄介な感情を生んでしまうからなんでしょうか?

 ご多分に漏れず、この物語の主人公も息子との関係に頭を抱えています。社交性もあり、優しく社会的地位もあるという端から見れば理想の父親を具現化したようなピーター。それをおヒューことヒュー・ジャックマンが演じるから余計に“完璧さ”が際立ちます。新しい家庭を作り幸せまっしぐらだった彼の日常に現れたのが元妻との息子、ニコラスでした。元来、繊細な上に思春期真っ只中だった彼は母親との生活に息苦しさを感じ父親を頼ります。

 ピーターは離婚のことでニコラスに罪悪感があるし、何より息子のためにという思いから彼を全力で守ろうとします。でも「お前のために」という思いの先には父親として息子に望む理想や願望の姿でもあるから無意識のうちにニコラスを追い込んでいくことになるんです・・・その居たたまれなさよ。(劇中、職場で働く快活な青年、彼に真似たスタリングでニコラスにジャケットを仕立ててしまうピーターの無意識の行動が痛すぎて見てられない・・・)

 また厄介だったのはピーターが自身の父との親子関係においても現在進行形でこじらせていたこと。ニコラスがピーターにある種の嫌悪感を抱いていたように、いえそれ以上にピーターは父親にむき出しの嫌悪感を抱いていたのです。あんな風にはなるまいと拒絶し自分のような思いをニコラスにはさせたくないという一心なのに、気付いた時には父親と同じことをしてしまうというそのやるせなさよ。ピーターは知らぬうちに“父親かくあるべし”という呪縛に囚われていたのです。(しかもピーターの父親を『ファーザー』で主演だったアンソニー・ホプキンスが恐ろしい程の存在感で演じます)

自分の感情を制御出来ず、そればかりか自分で自分を傷つけてしまう息子を前に家族だからどうにか出来る、しなければならないという感情に囚われたピーターは最後に1つ大きな過ちを犯してしまいます。そこには当事者だからぶち当たる壁があり、第三者しか出来ないやり方がある、という提言です。

 子育てにおいて自分の子供なのにどうして・・・と無力感に苛まれる親はたくさんいると思いますが、親子といっても結局は他者なので、それぞれが個であることを受け止められれば道は開けるのかもしれません。考えさせられる作品ですが、自分を知るためにもこういった映画を観ることの大切さがあると思っています。誰もが誰かの子供だし、誰かの親だったり、そうなることもありますものね。

By.M