『トリとロキタ』
ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌは“ダルデンヌ兄弟”で知られるベルギーの社会派映画監督。『ロゼッタ』(1999年)、『ある子供』(2005年)がカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞ほか5作品連続主要部門を受賞するなど、長編映画監督デビューから35年たった今も精力的に映画を作り続けています。そのダルデンヌ兄弟最新作にしてカンヌ国際映画祭75周年記念大賞受賞作が今回ご紹介する『トリとロキタ』(3/31公開)です。
幼さが残る少年トリ(パブロ・シルズ)と10代後半の少女ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)はアフリカからベルギーに移民としてやってきた。道中で出会った二人はビザを得るために姉弟であると偽りドラッグの運び屋をして何とか生計を立てているがその生活はいつも危険と背中合わせだ。しかし追い詰められたロキタは偽造ビザを手に入れるためにさらに危険な仕事を始めることになる・・・・
この映画の主人公のトリとロキタは生きることもままならない故郷を離れ、生活をするためにヨーロッパにやってきました。似た境遇で出会った彼らが望んだのは二人で一緒にいること。そしてロキタにはヘルパーとして働き、稼いだお金を故郷にいる両親に送りたいという願い、トリはきちんと学校で学びたい、という願いがありました。決して多くを望んでいた訳ではありません。でもビザもなく、なにより親のいない未成年の二人は生きるためには危険な仕事をするしかなく、近寄ってくるのは彼らを利用することしか考えない大人たちだけでした。
怒り、悲しみ、やるせなさと映画を観ている間、行き場のない感情で埋め尽くされるのですがそれはこれが映画の世界だけでなく現実も似たり寄ったりだ、ということを私たちは知っているから余計に虚しさが伴います。自分より弱い立場にある者には何をしてもいいのか、ここで登場する大人たちには優しさの欠片もなく、助けようとする者すら登場しない。それはこんな世界から目を背け、見なかったことにしよう、と何の解決にもならない答えしか導けない非情な我々の存在を表しているかのようです。
トリとロキタの絆は二人に苦難が襲えば襲うほど強固になり、互いを思いやる気持ちに溢れていくのですが、現実は無慈悲なまでに彼らの前に立ちはだかります。でも今の我々はその薄情な社会の一片であること、問題から目をそらしているだけなら共犯であることを自覚しなければなりません。
夢も希望もないトリとロキタの日常の中で、二人が本当の姉弟のように固い絆で結ばれていることだけがこの映画の灯です。いつもはロキタがトリを見守っているけれど、パニック発作を抱える彼女が不安になると力強く支えるのはトリの役目。二人の友情に本当の家族以上のものを感じる時に“家族”の在り方についても考えさせられます。
無条件に互い思いやる心の強さだけがこの映画の美しさだなんて救いがなさすぎるから、私たちはこの映画の先に続く未来が少しでも温かいものになるようにしなければ、と思うのです。
By.M
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