インデペンデント系映画: 2017年6月アーカイブ

『ありがとう、トニ・エルドマン』

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 皆さん、こんにちは、女住人Mです。今週末からいよいよ夏興行の始まりです。夏休みに向け大作やファミリー映画が続々公開されるこの時期。っと、その前にどうしてもご紹介しておきたい作品が・・・6/24(土)公開『ありがとう、トニ・エルドマン』です。
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 親元を離れ生活しコンサル会社に勤める独身女性イネス(ザンドラ・ヒューラー)。仕事人間の彼女には悪ふざけとジョークが大好きな父・ヴィンフリート(ペーター・ジモニシェック)がいます。父は愛犬の死をきっかけに娘が働くブカレストにやってくるも、そんな彼が鬱陶しいイネスはぞんざいに扱ってさっさと追い返してしまう。が、ホッとしたのも束の間、モサモサのカツラ、出っ歯の入れ歯をした父が"トニ・エルドマン"と名乗って再びイネスの前に登場します。本作は世界各国の映画賞に輝き、有力誌で2016年ベスト1を総ナメにした父と娘の物語です。
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(「こんにちは、私がトニ・エルドマンです。」)

 さて突然ですが皆さん、お父さんとの関係性ってどうですか?小さい頃は「パパ、パパ」と言っていた娘もいつの間にか「お父さんキモイ!下着一緒に洗うとかキモイ!」と言い出し、おうちで肩身の狭い存在になっている・・・というのはよく聞くお話。私の周りも7割ぐらいは父と疎遠、もしくはあまり接点なしと言っている友が多いのですが、私の場合は小さい頃からお父さん子で、すこぶる良好な関係を保っていました。とは言え、一緒に生活した時間より離れて暮らす時間が遥かに長くなってしまうと、たまに会って話しかけられるだけで何だか不機嫌になってしまう。嫌いじゃない、嫌いじゃないけどほっといて~、となる。
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でもってこの映画です。私はイネスが自分に見えてしょうがない。ちょっと陽気にジョークを言う父、これが友達のお父さんだったりすると「楽しくていいじゃん、可愛いじゃん」となるけれど、自分の親だとイライラ。ちょっと心配されようものなら「ちゃんとやっているから」とイライラ。いやわかってるんです、お父さんは無条件に心から心配してくれていることも。それが充分わかっていても、甘えからの八つ当たり。それも娘の自分なら許されると思っているおごり。映画の中でも冷たい行動を取ったあげく、父をベランダから見送り、トボトボ帰る後ろ姿を見て、涙ぐむイネスに「どっちやねん」となりますが帰省の度にこれと全く同じ行動をしている自分がいる。悪い、悪いと思っていても心は裏腹、一人になってやっと素直になっても遅いのに・・・
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 と、父娘の微妙な距離を描く物語、ここまでだったら、よくある話ですがこの映画の本領発揮はここから。「もうお父さんが急に来てね、いい迷惑よ」なんて友達と話していたら後ろに立っている、で「私はトニ・エルドマンです。」と名乗って友達と談笑し、和気あいあい。「何やってんのよ!」とお父さんを責めるも、娘が心配でならないお父さんも引かない。お得意の悪ふざけを交えて、イネスの気持ちをほぐそうと、どんどん日常に浸食し、却って彼女のイライラは積み重なっていくのです。
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でもイネスも気付き始めるのです。自分の存在や居場所に執着し過ぎて周りが全く見えなくなっていることも。そんな執着を守りたいがために大切なことを見失っていることも。そして大切なことが一体何なのかすら、わからなくなっていることも。だからこそ自由に生きている(と見える)父を見て、余計に腹立たしくなっていることも・・・・
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(一人暮らしの女の悲哀溢れる、このシーン!)

 そんなどん詰まりのイネスだったのですが、ついに感情のビッグバンを迎えることになります。あんなに自分の気持ちを殺して本当のことから目を背けていた彼女がまさに"裸"の心をむき出しにする展開が!唖然!愕然!?爆笑!なのに泣ける、泣けてしょうがない・・。ちょっと奇想天外な父娘の物語ではあるのですが、映画を観終わった後は何とも言えない温かい余韻がイネスと共にむき出しになった皆さんの心も包み込んでくれると思います。
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 本作はドイツ=オーストリア映画。馴染みの薄い遠い国のお話に思えますが、父娘の関係はこんなにも世界共通なのか、ということに驚愕しつつ、自分に似た仲間が見付けられた気がしてちょっと嬉しくもなったり・・・いや、そんなことより、今後はちゃんと素直にならなきゃですね。気付かせてくれて、本当に「ありがとう、トニ・エルドマン」!

By.M
© Komplizen Film

『20センチュリー・ウーマン』

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 皆さんこんにちは、女住人Mです。
今回は本年度のアカデミー賞脚本賞にもノミネートされた6/3(土)公開『20センチュリー・ウーマン』をご紹介いたします。
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 舞台は1979年サンタバーバラ。55才のドロシア(アネット・ベニング)はシングル&ワーキングマザー。目下の悩みは15才のティーンエイジャー、一人息子ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)のこと。何かと難しいお年頃の彼が心配で、息子の人生の指南役にと二人の女性に相談を持ちかけます。
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 本作の監督はマイク・ミルズ。前作「人生はビギナーズ」(こちらもオススメ!!)では75才でゲイであることをカミングアウトした自らの父親をモデルに描き、今回は自身の母をテーマにした映画を作りました。彼自身がもともと映像作家/グラフィックデザイナー(X-GirlのロゴやGAPのCMやソニック・ユースほかのアルバムのジャケットなどなど)として活躍した後に映画監督になっている、そんな経歴もあって彼の作品は映像も音楽もとにかくおしゃれ~、というのが第一印象。

と、なると「オシャレピーポーの映画はちょっといけすかない」となるものですが、ミルズ監督の映画は親密な空気が流れていて、どこか温もりを感じさせてくれる・・・。まるで友達が大切にしているアルバムを見せて貰っているような感覚になります。それは彼が繊細な部分を差し出して映画を作ってくれるから、そんな気もしています。
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(劇中の衣装がミルズ監督のお母さんの形見の品や監督の私物だったり、そんなところも彼のテイストが随所で輝いています)

さて、ドロシアが多感なお年頃のジェイミーについて相談を持ちかけるのは自分の家に間借りしている写真家のアビー(グレタ・ガーウィグ)とジェイミーの幼馴染ジュリー(エル・ファニング)。アビーはデビッド・ボウイに触発されて髪を赤に染めた、生き方そのものもパンクな女性なのですが、最近病気を患いちょっと落ち込み気味。一方ジュリーもジェイミーよりはちょっと年上だけれど、この年にありがちな"若い自分"という存在自体を持てあまし、不安定。そんな危うい感じの二人に相談して大丈夫か?という感もありますが、肉親では決して教えない、彼女らなりの一生懸命のアドバイスをジェイミーにするのです。
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(本作におけるエル・ファニングは可愛すぎて、非常にけしからんレベルです!)

それが思春期のジェイミーには苛立ちの種になったりで却って母息子の関係性がギスギスしたり、その苛立ちをぶつけるように、アビーと夜に出かけてお酒を飲んだり、女性の口説き方を教わったり、ジュリーとセックスについて語ったりと、ドロシアが思っていた以上の展開に・・・。でも、よく男性監督が女性を描くと変に神秘化された「こんな女神いませんから」みたいな女性が出てきがちですが、そこはジェイミー同様、母親と2人の姉に囲まれて育ったミルズ監督だからこそ、等身大の女性が描かれていて、頷けるキラーコメント(セリフ)も続出なのです。
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とは言え「これは行き過ぎだわ、まずいわ!」と思ったドロシアは同じく部屋を貸していたウィリアム(ビリー・クラダップ)に助言を求めるのですが彼自身もどこか不安定な存在で・・・つまり、登場人物が誰もが危なっかしくて、もしかしたらジェイミーが一番まともな青年な気もしなくはない。そんな感じではあるのですが、思春期というセンシティブで、かついろんなことを素直に吸収出来るお年頃に、こんな大人たちに囲まれて育つジェイミーはすご~く素敵な大人になるんじゃないか、と思えるのでした。
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1970年代という時代性も描かれ、当時のファッションや音楽といったカルチャー全般も楽しめるし、映像もとても素敵で確かにシャレオツ度は高いのですが、この映画そのものとどこか親密な関係性が築けるような、そんな1本になっていますYO!

★マイク・ミルズ監督来日記念、トークショーの模様もお届け★
 再び、パーソナルなテーマで映画を作ったことに関してマイク・ミルズ監督は「最初からそういうものを作ろうとは思っていなかったんだ。僕はシャイだから自分のことを映画にするなんて考えてはいなかったよ」とコメント。
前作の「人生はビギナーズ」でお父さんのことを描いている途中にお母さんもとても素敵な人だったな、と再認識したミルズ監督は(彼女をモデルにして)自身も大好きなウディ・アレン、フェデリコ・フェリーニのような映画が作れるんじゃないかな、と思ったそうです。
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「パーソナルな部分を公なものに変え、自分だけのものをみんなに共有する作業は、自分の大切なものが遠くに行ってしまう感覚にもなる。でも、撮影が始まるとそこには家族のような仲間たちがいて夢が叶うような楽しい日々だったよ」とミルズ監督。
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 また、本作の公開を記念して映画コメンテーターのLiLiCoさんとライターのよしひろまさみちさんのトークショーも開催されました。
LiLiCoさんはアネット・ベニングが演じた母親のドロシアについて「感性、センス、オープンマインドなところが素敵!こういう家族がうらやましいわ。」とコメント。
よしひろさんも「この映画は見る人によって思い入れが違うだろうし、親を亡くしていると特に感じることがありますよね。」とコメントし「子どもにとって母親は"お母さん"というのは職業のようなものだけど、当然、母親も一人の女性なんですよね。女性としての母をもっと理解してあげたかったなぁ」とLiLiCoさん。
この映画を観ると母親の別の一面も知りたくなるのでお母さんと一緒にご覧になるのも良いかもしれませんね♪
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By.M
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