『デッド・ドント・ダイ』
皆さんこんにちは。今回は味わいのある俳優・アダム・ドライバーにフォーカスしながら6/5(金)公開『デッド・ドント・ダイ』をご紹介いたします。
アダム・ドライバーと言えば『スター・ウォーズ』シリーズのカイロ・レン役でご存知な方が多いと思います。悲哀ある眼差しで憂いながらもすぐ八つ当たりする、情緒不安定なカイロ・レンはかなり子供染みた面がありましたが、アダム・ドライバーが演じたことでトンチキなキャラにならなかった気がしています。あの映画でメジャーの世界に躍り出た感はありますが、彼自身は『スター・ウォーズ』シリーズに出るまではインデペンデント映画界隈の名だたる映画監督に愛され、既に引く手あまたな存在でした。
彼のフィルモグラフィーとしてはカイロ・レン役が最も異色だったぐらいにいわゆる王道スターという訳ではありません。彼の演技も出過ぎる感は一切なく、それでも「あの役がアダム・ドライバーだったから良かったよね」という感想に落ち着くことの多いこと。変幻自在なので彼の演じるキャラクターのバリエーションは多くて、淡々としていたり、コミカルだったり本当に芸達者。でも本人は自身の作品は恥ずかしいから決して観ないらしく、そんなところも「もうアダムったら~」と私自身、ここ数年アダム・ドライバーのハード・ウォッチャーです。
そんな彼が『パターソン』に続き、ジム・ジャームッシュ監督作への連続登板となったのが本作、『デッド・ドント・ダイ』。独特の“はずし”の美学を持つジャームッシュ監督が描くゾンビ映画はオフビート・コメディ。ゾンビ映画の金字塔と言われるジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(68年)に最大の敬意を払い・・・と言えばゾンビ映画好きな方にはすぐ「あ~、あっちね」と分かって頂けるかと。つまり登場するのは最近主流の猛烈にハイスピードで襲いかかってくるゾンビとは異なる、土葬の墓からぬらりと出没する往年スタイルのゾンビです。
アメリカの田舎町で3人だけの警察署で働く署長のクリフ(ビル・マーレイ)、巡査のロニー(アダム・ドライバー)、ミンディ(クロエ・セヴィーニ)はいつものようにささいなトラブル処理に追われていたのですが、ダイナーでの変死事件を皮切りに、異常事態が勃発。町にゾンビが現れどんどん増殖し、彼らはそれに立ち向かうことに!というストーリー。
ロメロ版ゾンビが生まれて以降、その影響下にあるゾンビは現代社会への痛烈な風刺だったり、メタファーだったりした訳ですが、ジャームッシュが描くゾンビも生前、固執していたものや嗜好品に愛着を示すという、現代人こそが生きる屍=ゾンビじゃない?というメッセージがバリバリに反映されていたり、反トランプ的なニュアンスも含まれていたり社会派なテーマが根底に流れます。
そうではあるもののオフビートが代名詞のジャームッシュ映画なので、本作もユルユルっと展開。遊びまくったシーンは満載でソンビ映画に漂う悲壮な世紀末感や緊迫感とは違う、まさに“ジャームッシュ”ワールドが広がっているのでした。
そんな独特な世界観の中でもアダム・ドライバーはいつも通りの佇まいで存在感を放っています。大きな体で超小型車に乗り、町の、いや世界の一大事でもどこかひょうひょうと、でもバッドでスカーーンとゾンビの頭をくらわすその姿。この映画のように混沌としてしまった現代社会において、絶対的ヒーローの活躍よりもアダム・ドライバーのようなちょっと捕え所がないけど、妙に安心感がある、そんな人の活躍を愛でている方が心も安らぐ気もするのです。
By.M
(C)2019 Image Eleven Productions,Inc. All Rights Reserved.